第16章 因縁の終焉
呼吸術を強力に使った故に、見た目以上に損傷が酷い体内と、攻撃で思いのほか傷ついて利き足の土踏まずが貫通し、踏ん張れる余力も僅か。
しかし、童磨の言葉は、カナエの耳をすり抜けていくだけで、もはや何の感情も揺り動かさない。
ただ、静かに、そして深く、呼吸を整えた。肺に吸い込まれる冷気が、まるで氷の刃のように内臓を切り裂く感覚。だが、それすらも、今のカナエにはどうでもよかった。
繋ぐための時間稼ぎ
不思議と安心感があるのは
もうこちらに向かっているという理屈がない確かな予感のせいだとしても…
刀を構えると同時にどこからともなく風が起きり、淡い桃色の桜の花びらが舞い始めた。
静かな燃ゆる闘志が花の香りを強めて、花を纏う風も強くなる。
命の儚さは散り間際の満開の桜の美しさと同義
フゥゥゥゥゥゥ……
「おや?凄いね…!美しいねぇ…!
命の輝き?美しさ?
俺にはさっぱりだけど…、君が今以上に華やいでいるのが解るよ…!」
童磨の瞳孔が好奇心の最高潮に達し、小さくなるにつれ
花吹雪はカナエの周囲で勢いを増し吹き荒れる。
花の呼吸
歴代の花柱たちは『終ノ型』を個人の技量で生み出されるものを編み出し、己の剣技を完成させてきたらしい。
まだ、柱ではないけれど、
わたしが編み出す『終ノ型』を定めるならば…
カッ見開く視線の先へと桜吹雪はうねるように進む
今までこの鬼に奪われた魂が彼女と共に突き進むように
満身創痍の体から、信じられないほどの柔軟性と体幹が解き放たれる。
新体操選手のようにしなやかな動きで、彼女は宙へと舞い上がった。
「花の呼吸・終ノ型……
『桜花爛漫・桜吹雪』」
宙を舞うカナエの体は、強風にあおられながら縦横無尽に舞い狂う桜吹雪のように舞い狂う。
一瞬で童磨の背後を取り、その刀身は、まるで咲き乱れる桜の花弁のように、あらゆる方向から深く、素早く切り込んでいく。
ドッ、と童磨の体から鮮血が舞う。
無数の桜色の斬撃が、童磨の全身を切り裂き、彼の冷気をかき消すかのように、熱い闘気が周囲に満ちた。それは、鬼を滅する日の光のような、温かくも鋭い光を放っていた。
「ほう…これは面白い。見た目はこんなに美しいのに、これほど深い傷を負わされるとはね…」