第16章 因縁の終焉
落ち着いて…
そう自分に言い聞かせた。
宗教の教祖たるものそれが鬼である以上、倫理が人と違うのは当たり前。
それに彼には感情がない。
その分あのように平然と話すことで挑発になる。
深く
深く
深呼吸をした。
あぁ…やはりこの鬼は哀れで悲しい存在。
罪を犯しすぎた以上生かしてはおけない。
「やはり、あなたは空虚であらゆる倫理が宗教の教祖たらしめているのですね…。
何とも憐れな存在なのでしょう…」
不思議と頭の中がスーッと静まり返る気がした。
その代わりに、腹の底からの怒りが揺らぎなく静かに滾る。
目を見開き、標的たる童磨を見据えた。
「君もどうやら、俺の教義など理解できない存在なのだね」
童磨からも表情が消えた。
禍々しさが増し、彼自身からも強い冷気を感じる。
「はじめから仮面などいらないのです。さぁ。もうお話は終わりにしましょう。まんまと再生時間を与えてしまいましたからね」
冷気が厄介で、呼吸を入れる間合いが難しい。
だが、カナエとて先ほどとは段違いに集中力を増した。
刀を構え走り迫るカナエに童磨は次の技を繰り出す。
「血鬼術・散り蓮華」
蓮の花弁を模した無数の氷の刃が放たれた。
「肆ノ型・紅花衣」
氷の刃を粉砕しながら、先ほどよりも勢いを増して前進する。
「君は今まで喰ってきた女の子たちより段違いに強いね…
凄く早いよ…
どんどんおいで…」
鉄扇を水平に切ると再び蓮が舞い迫る。
「血鬼術・散り蓮華」
「伍ノ型・徒の芍薬」
氷の蓮を10連の太刀で粉砕して、さらに童磨に迫る。
これはもしかすると先ほどの域から脱して、柱に及ぶほどではないか____
そう童磨は思った。
それでも柱が一人では己を追い詰めることはできない。
この鬼にとってはそれこそ、手のひらで転がし遊んでいるに他ならない。
「もっと遊んであげる。一人では勝てないでしょ?
しかも女の子だしね…。安心して…。ズタズタにしてボロボロになっちゃったら苦しくないように君だけは特別に先に食べてあげるよ…」
「無用です」
「壱ノ型・桜咲舞」
再び童磨に斬撃が届くものの、先ほどよりも浅い。
たちまち瞬足で傷が治り狂気が増した。
「血鬼術・冬ざれ氷柱」