第16章 因縁の終焉
「ほら…君たちが心配するであろう”人間”は出て行ってもらったよ…
さぁ…楽しませておくれ…」
鉄扇がふたつ。
それは桜華が所有している刀扇より一回りは大きく黄金の蓮の屏風のような艶やかなもの。
「長年”人間”と暮らし観察して身についた常識と心の移ろい…。だけどあなた自身何も感じないから…そうやって人の心と絆を試し観察するのがお好きなのでしょう。
その狂気はあなたが『何も感じない』故なのでしょうね…」
感覚を研ぎ澄まし、周囲に桜華以外いないことを確認すると、静かに刀を構え直す。
「本来ならば、鬼を被らされた人間である部分を解きほぐしますが、今回、あなたはわたしの大切な友人を苦しめることで、わたしを怒らせました」
本当は、こんなことをいっても響くことはないのは解ってる。相手は何も感じない…。
だけど、狛治さんと出会って、鬼になる前のお話を聞かせていただいた際に聞いたことを思い返すと、少しだけ思ってしまう。
『無惨の都合』で消された記憶や思いもあるのではないかと。
それを思い出すためのカギになり、地獄での自分との向き合い方が少しでも変わるならと願ってしまうの。
でも、大切な人を目の前で身勝手に弄ばれて、この怒りは抑えようもないし許すことはできない。
刀の柄を握り締める手にギリギリと力が入る。
わたしの前には表情も変えず笑みを崩さず涼しい顔でこちらをみる鬼の姿。
「あなたが地獄で罪の海に沈むことを願います」
一つの動きが勝敗を分けるような張り詰めた空気で
ただ、呼吸を整えた。
「花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬」
相手の懐に入らなければ、頸になんか到底届きもしない。
だけど二度目。
これも当然避けられるのは想定済み。
むしろ…
「いいねぇ…懐に入るための9連撃かな?美しい剣技だ…。
じゃぁ、俺も、させてもらうね」
引き出すのが目的
そして、『生贄』として無惨に差し出すことを命じられているのならば、桜華さんには届かないようにするはず。
一瞬にして周囲が冷気に包まれる。
「血鬼術・枯園垂り」
パキパキパキとうねり迫る曲線の氷柱を交わしその奥の対象を見据えた。
「肆ノ型・紅花衣」
なるほど…厄介…。はじいても細かい粒子が飛ぶ。
硝子の破片のように散った粒子が、手の甲を僅かに掠っていった。