第5章 傷と罪は共に背負うモノ
桜華が夢の世界に入って翌日の夜
猗窩座が帰ってきた。
いつもなら起きている時間なのに寝入っている桜華に声をかける。
「桜華」
「桜華、帰ったぞ。」
返事もなければ身じろぎする様子もない。
異変を感じて近寄ると、その両目に涙を浮かべている。
「おい……、桜華、どうした?」
起き上がらせて揺さぶっても起きることはない。
しかし、呼吸も安定、熱もなければ、どこかを痛がっている節もない。
「おい!しっかりしろ!どうしたんだ?
何で泣いてんだ?目を覚ませ!」
揺さぶり起こすもガクガク揺れるだけで返事もない。
じんわりと目が痛んできたと思い、擦れば自分の涙が流れていることに気づく。
なぜだろう、涙が止まらなくてとてつもなく胸が苦しい。
目の前の、腕の中の桜華は確実に生きてるのに、どうしてこんなにも苦しい?
一人だからか?
俺はそんなに待てない性分だったか?
なんで、ちゃんと温もりがあるのに焦ってる…
ふと、頭を撫でられた感触がして顔をあげるけど誰もいない。
『大丈夫、待ってて……』
桜華のものではなさそうな女の声。
「…誰だ!」
だけど、まわりには誰もいない。
最近よく見る映像に出てくるやつの声なのか?
最近の俺はおかしい。
記憶にない映像も、さっきの声も、
俺が忘れているものなのだろうか。
腕の中、桜華の体温と呼吸による僅かな動きに生きているのを確信しても、
無性に不安と恐怖に苛まれるのはどうしてだろう。
『孤独』そんなことは今まで何も感じてこなかったはずなのに、彼女の瞳が俺を見ていないだけでこんなにも苦しい。
二人の生活の方に慣れてしまったことを今さらながら痛感する。
「……一人にするな。
………せっかくいろいろ決意して帰ってきたというのに…。」
未だ涙をながし続ける桜華の頬を撫でて、涙を拭う。
さらさらの黒髪を溶かすように撫でると、心の痛みを誤魔化すようにその体を抱きしめる。
「目を覚ませ……。お前の目に俺が写ってないと、どういうわけか………苦しいんだ。」
そう呟いても桜華は涙を流すだけ。
返答は返ってくることはなかった。