第15章 蓮華
鴉で連絡が取りづらい環境の中、宇髄さんが連絡用にとお手伝いいただいているムキムキネズミさんが、わたしに踏みをこっそり持ってきてくださることで、大方の状況は理解しているつもり。
ひとりでやりきらなければと思うものの、ここの教会の教祖が上弦の弐と聞いてからは本当に帰ることが出来ないものだということも覚悟していた。
なのに、どういう偶然か、桜華さんが産後の悪い状況のなか攫われてきて、弄ばれているのがどうしても許せないという思いで、怖さよりも使命感の方が勝ってきたような気分だった。
まだ、回復していない桜華さんの状態を見ても、輸血したばかりでいろいろあったからか、体調があまり芳しくない様子。
いつも以上に頭に酸素が回っていないであろう状況で冷静な判断など酷な話。
だからこそ、いつも以上に、この上弦の弐に腹を立てぬよう余計なことは聞き流し愛想笑いをしてきた。
襖を隔てた向こうに、動向も意図もまだ解らない鬼がいるから声も手を使った会話もできず、視線で語り合うしかない。
『ごめんなさい』
と、先ほど沢山トラウマとなっているような言葉を多用されて煽られた彼女はわたしに謝っているようだった。
そんなことはいいの。
しょうがないじゃない。
あなたのせいじゃないわ。
その言葉が伝わるように違和感の出ないように微笑んで見せた。
とりあえず、わたしの今の仕事としても、ここにいるわたしの役割としても彼女を診察することにした。
幸い、安静にしていると、順調すぎるほどに回復できる体。
それも当然でしょう。
彼女の体に流れる血も遺伝子も、そして運さえも最も恵まれている。
わたしは可能な限りお手伝いさせていただくだけ。
一緒に無事で帰りましょう。
聴診器を当てているときにいつの間にか束の間の眠りに入ってしまった大切なわたしのお友達。
もう少し休めますようにと祈りながら、出来る限りの処置をした。