第14章 命と古傷
「これ以上…無理はするな。
心臓がいくらあっても足りん…」
もう少し軽く考えていたここに戻ってくる前までの俺を殴りたいと思った。
こんなにボロボロになって二人を産んだ後に君が提案した過酷な作戦を決行しようとしたことを。
「申し訳ございません。でも、わたし、やりますよ…」
細い声だが、いつもの彼女らしく芯が通った強い言葉だ。
そう言うと解ってる。
だが、今でなくてもいいだろう…。
もう少し体調が回復してからでも充分じゃないのか?
「狛治と子どもたちのところに必ず戻るから…」
「今でなくていいだろう…」
「子どもたちと…他の方々を…長く、巻き込みます。ここはもう知れてしまったのですから…」
桜華を抱く手に力が入る。
暖かい体温が今の今で命の重さと存在の大きさを嫌でも感じてしまう。
失うことが前よりも怖い。
最悪なことまで光景として思考を遮る。
「絶対、大丈夫。わたしは…、父の遺伝子とあなたの血で、これまでになく頑丈なのです」
あぁ、そういう人だ。でも不安なんだよ…。
まだ産後まもなくで、体がボロボロだというのに君が囮になると…。
しかも、よりによってアイツのところに…。
天元から、刺客が捕まりいろいろ吐いたらしく、俺の予想は当たっていたのだ。
先ほど、天元の鴉が伝達の紙を携えてきてそれを読んだ。
しかも、そこにはカナエさんまで潜入調査でいるらしい。
「わたしには、ここに帰ってくる未来しか見えていません。
その先に、わたしのやるべきことがあるのだから…」
肩口から聞こえる強い言葉と体温が、桜華の決意が揺るがないことを悟らせてくる。
あぁ…
離したくない…。
「子どもたちを…よろしくお願いします」
「…っ」
俺が…
彼女に応えて
覚悟を決めなければ…!
今一度強く桜華を抱き締めて、朗らかに笑う口許に、額に口付ける。
「必ず、迎えに行く」
「お待ちしています」
作戦決行と暁に文を結びつけて飛ばす。
もうじき日が傾くという頃
頬を両手ではたいて、障子を開けた。
黒い身を隠す布を纏い子を両手に抱える。
いい子だ。
よく眠っている。
目の前には10名の隠。
その中には隠の姿をした天元の嫁たちもいる。
同じ荷物、滑車と共に2人一組で乗り5つの異なる道へと走り出す。