第14章 命と古傷
どれくらい時間が経ったか…
あれから一度陣痛は遠のき、深夜日を跨いだころ、
また陣痛が復活し5分間隔になる。
母親とは、出産とはこんなに過酷なものだとは思わなかった。
桜華の場合は1度の出産で二人も生むのだ。
いくら彼女が常人に比べて強くとも、生まれてくる意志を持った方はまだ未熟なふたりの赤子。
嫌な妄想と、憶測と…その先にあるであろうアイツの手下の襲来。想定しておかなければならない事態ばかりで気が狂いそうだ。
ただ、今は、見回りに協力してくれる隠や天元がいる。
思い返せば、天元はあれ以来こちらに帰ってきていない。
追っ手の方で進展があったのか…気になるところだ。
いや、アイツなら、きっとうまく立ち回ってくれる。
俺は確実に母子とも健康な状態でお産がおわることを祈り協力することに集中したい。
「桜華。大丈夫だ。きっともう少しだ。気をしっかり持て!!」
「う”ぅ~っ!!ああ”~~~っ!!」
「もうすぐですよ!!皆さん一緒に居ます。頑張りましょう!!」
どれだけそうしただろうか。
小夜子さん、珠世さん、天元の嫁たちが懸命に介助して深夜の3時を過ぎた頃。
「んぎゃぁ!!ふぎゃあ!!」
その瞬間に涙腺がおかしくなり、得体のしれない感情がぐちゃぐちゃに湧き上がってきた。衝動的に泣きじゃくる桜華の頭を抱きしめる。
「一人目は男の子です。おめでとうございます!」
「二人目の子もすぐよ。最後まで頑張りましょう」
「はい…ぅぅっあ!」
まだ桜華は呼吸が浅い。
これからもう少しの戦いが始まる。
「ああああ”っ!」
「いきますよ!!気をしっかり持って!!」
「ハァ…ハァ…んああ”~!!」
一人目の産声が近くで聞こえる。
全身が熱い。
強く握られた手を強く握り返し二人の無事を祈る。
「ふぎゃ!ふぎゃ!」
二人目は女の子。
だが、生まれた後、
予期していない事態に血の気が引く。
「愈四郎!!輸血の血を!!早く!!」
「はい!!」
「桜華さん!!しっかりして!!」
虚脱状態に陥った桜華を取り囲む珠世さん、小夜子さんの声に吐きそうになるほど、心臓を締め付けられ古傷が疼いて俺を蝕んでいく。
どうしたらいい。
どうしたらいい…
今からだろう?
頼む
戻ってこい…!