第14章 命と古傷
あぁ…同じこと言わないで…
安心と心強さにホッとして涙が止まらなくなる。
「珠世さん、変わっても?」
「…!は、はい…」
珠世さんが狛治と入れ替わって、わたしが見えるところで手を取って、逞しい手がわたしの背を撫でる。
「もう大丈夫だ。これからは4人だ」
「…!」
わたしが辛いときにわたしに効く一番の言葉を言ってくれる人。
「はい…」
思い切り手を掴んで、狛治の膝に頭を押し付ける。
握り返してくれる手のせいで涙が止まらない。
「痛いな。背中はどうしたら楽になる?」
「今のままお願い…ハァ…っハァ…っ!」
汗を拭いてくれる珠世さんの手が離れてそっと様子を見ると、狛治と目が合った。
「ありがとう…」
一瞬驚いた様子で表情が固まると、少し唇をかみしめながら笑ってくれる。
「俺こそ、桜華には感謝したりないくらいだ」
そういいいながら、またガシガシと強く背中をさすってくれる。
「狛治さん、凄く上手じゃないですか!桜華さん、さっきまで少し過呼吸気味で…」
「じゃぁ、俺が最後まで付き合うことはできますか?」
唐突に狛治から言われて小夜子さんは戸惑っていた。
「えぇっと…」
当然のこと。
お産は男の人が付き合うものじゃない。だからこそ戸惑うのは当たり前だし、世間ではそれが常識。
しかも、狛治も人間だった前の時代はもっとそういうことは厳しいはずなのに…
「珠世さん…」
戸惑う小夜子さんは雇い主でもある珠世さんを見た。
「桜華さん、どうしたいですか?」
「…!どうって…」
珠世さんの目が今まで以上に優しくなる。
「ずっと、桜華さんの身の回りのことや看病をしてこられたことがあったのでしょう?」
「でも…」
「わたしは、長いこと生きてきましたから、世間の常識よりもあなたの気持ちを尊重します。狛治さんなら大丈夫ですよ」
わたしが話している間も、ずっと真剣な眼差しが強い意思を見せている。
何があっても守ると。
「お願いします…。狛治と…一緒に、いさせてください」
どうしてこうも涙が止まらないんだろう。
でも、これは
今までの優しいあなたの記憶が凝縮されて、それが手の温度と合わさって単純な言葉では言い表せないくらいの想いが溢れているからだった。