第14章 命と古傷
障子の先、慌ててきてくれたんだろうと思うほど汗をかいてる狛治を見て、嬉しかったのとホッとしたことと合わさってか、うるっとしてしまって言葉がだせなかった。
代わりに珠世さんが話してくれたて、急ぐようにまた走っていっってしまった。
「ホントに狛治さん、桜華さんを大事に思ってらっしゃるんですね」
わたしの額の汗を拭きながら小夜子さんが笑う。
何度痛みがきては落ち着いたか、小夜子さんが気づいてくれてこの部屋に連れてきてくれた。
特に産婆を呼ぶわけでもないから、もう少ししてからと思っていたんだけど気を遣わせてしまったみたい。
そのあと、予定していなかった女性の隠の方々も、雛鶴さんやまきをさん、須磨さんも天元さんと共に駆けつけてくださって、それぞれが見張りや、家の事をして、本当に感謝以上の言葉を探しきれない。
水を飲ませて貰って、できるだけ深呼吸する。
お母様もお婆様もわたしの家系は双子が多いのだけど、こんなに苦しいし痛いのに代々血を繋いできたのだと思うと弱いことは言えないと思った。
また、少しずつ
痛みがきた…。
変化を感じ取った珠世さんは大きく背を擦ってくれる。
「大丈夫。赤ちゃんも早く会いたがってますよ」
横ではいそいそと、子どもたちの布団や産着の準備や医療器具が運ばれてくる。
「うぅ…っ…い…っぁぁっ」
「赤ちゃん優先で!息や声は止めてはだめです」
「…はぁはぁ…っ」
だめ…。思うように息ができない。どうやっても痛いのが逃げてくれない…!
「桜華さん。辛いのね…。できるだけでいいから少しずつでも息して」
「あぁぁっ…あっ…あっ」
浅い息しかできなくて混乱してくる。
一生懸命擦ってくれる手が速くなると、少しだけ楽だった。
だけど…
スパーンっと大きな音に驚いて頭が真っ白になって、気づけば大きく息を吸っていた。
不意にいつぞやの記憶が蘇る。鮮明に。
あぁ…
まだ、わたしが話ができなかった頃、鬼に襲われてダメだって思った時…。
「狛治…!狛治!」
何て情けないんだろう。
しっかりしなきゃいけないのに…
記憶の反射で…
後悔した刹那、頭を撫でてくれる手が全部包んでしまうような暖かさだった。
「遅くなって悪かった」
「間に合って良かった。もう大丈夫だ」