第14章 命と古傷
大きい羽音が聞こえて、二人とも足を止めると狛治の連絡鳥である暁がきた。
狛治と天元の周りをぐるぐると旋回しながらキーキーと鳴く。
「…!!」
「狛治、俺が警戒して見回りするからまっすぐ帰れ」
「頼む!」
脈打つ心臓が苦しい。
走る方向を屋敷へと駆け出す。
暁が知らせに来たということは、もう始まるのか。
桜華は大丈夫なのか?
いや、今日は他の女の隠も来ている。
俺なんかが行っても邪魔になるだけだが、言葉を交わしたいし出来るだけ近くにいてやりたい。
いくら、桜華が体が頑丈でも、医者でもある珠世さんと愈四郎がいて手伝いが何人いようとも一つの体で二人も同時期に産むのだ。
全く無事に生まれてくるという確証もない。
何かよくない事故があるかもしれない。
乗り切れたとして、そこからが3人、いや…俺たち家族に何かがあるかもしれない。
いや、桜華も先日言っていた。
『近々、必ず追っ手がわたしたちにたどり着く』と。
あれからずっと、緊張感とどこかで見られているような気が強くなっているように思う。
心配事や期待がそわそわさせる。
様々な思いが入れ代わり立ち代わり俺の脳内を占拠しているうちに屋敷が見えてきた。
「帰ったぞ」
玄関で声を上げると、「おかえりなさいませ」と家の中から聞こえて胸をなでおろす。
落ち着け、落ち着けと言い聞かせながら、桜華がいるであろう寝室に行けば、中で小夜子さんと珠世さんが桜華に話しかけている声がして、さらに安心している自分がいる。
「開けていいか」
「はい。お入りください」
戸を開ければ3人ともこちらを見ていて、桜華は少し汗ばんだように髪がまとまっている。
「今、陣痛が10分おきに来ているところです。もう少し時間がありますので、この後汗を流して来てください。
…宇髄さんは…」
「今、辺りを見回ってもらっている」
「でしたら、帰ってこられたら同じように伝えてください」
「わかった」
桜華の方を見ると息が少し荒いように思った。何か話したいようだが、今外から走って帰ってきたばかりだ。
「すぐ戻ってくる」
「はい」
悟は湯を俺の分と桜華の分と沸かして準備していてくれた。
「おかえりなさい。いよいよですね」
悟もどこか緊張しているようだ。