第14章 命と古傷
更に、2週間後。
促進剤を射っての出産になると知らせると、その日の任務を追えて天元と3人の妻が屋敷を訪れた。
天元からの申し出で3日の休暇をとって来たという。
陣痛もまだだと言うのに男は今することはないと言われたのもあり、周辺の見回りを兼ねて天元と屋敷の近くを走っていた。
道なき道を片方を背に背負って走るといった鍛錬でかれこれ半日は経っていた。
「そういや、名前は決めてんのか?」
天元が突拍子もない質問をすると、一瞬焦った狛治は何もないところで躓くところだった。
「何をいきなり…」
「お前、いい加減に慣れろって」
「俺よりでかいお前を背負っているんだ。走りづらいことくらい配慮しろ」
「何言ってんだ。鍛練に付き合えと言ったのはお前だろう」
走る速度を落とさず、さも平然となされる会話ながら悪態をつく狛治に少し呆れたように返す。
ほんのり耳の端が赤くなっているのを静かに笑う。
「で?どうなんだよ」
「名前は決めていない。ただ珠世さんが、一人は必ず男だろうと言っていた」
ただ前を見て淡々と話している狛治の声に、どこか温度を感じるのは悦びや感慨深さからくるのだろう。
そう思った。
「女は男より親になる実感を感じるのが早いらしいから、姫さんならいくつか候補はあるだろうよ」
「候補くらいはある」
少し食いつき気味で言い返してきたかと思えば、また耳の端が赤い。
「狛治、嫁、子どものことになると気持ちが分かりやすいほど出るな」
「叩き落すぞ」
「わりぃわりぃ」
それくらい大事に思っているのが目に見えてわかるから、元上弦だと知っても、何の嫌悪感もわかなかった。
それは出会ってからずっと思っていることだ。
派手に強くて、嫁や子をわかりやすいくらい大事に思い信じれるヤツだからこそ、手を貸したくなる。
「生まれてきたら、桜華と話して決める予定だ。
ただ、子が元気で生まれて、桜華も無事ならなんだっていい」
「あぁ。それが一番だ。俺も嫁も協力するし大丈夫だ」
「…あぁ…感謝している」
はぁ、こんなに幸せそうにしやがってよ。
俺もガキほしくなるっつぅの。