第14章 命と古傷
狛治がわたしを理解して信頼してくれた事と
何があってもおかしくない出産の前後のこの体のことを思って
あれやこれやと策を考えて
周りを巻き込んででも『必ず助ける』という強い意志が堪らなく嬉しかった。
このことは、あとで珠世さんと愈四郎さんにも知らせると言っていた。
どうやら、この屋敷の場所が特定されたのかも知れなくて、小さい痕跡を残されることが相次いでいるとのこと。
わたしが臨月であることで、支えてくださる皆も動けない。
外も安全じゃないと知らされれば、もうどこも身動きが取れない。
隣接する稽古場からは天元さんと二人で木刀を叩き合わせる音が響く。
まだ、来たばかりの小夜子さんはこういうことを話せるほどの信頼関係はまだ築けてないので話さないことにしたけど、多分わたしの横にずっといるであろう人だから、わたしが落ち着いて判断すれば彼女と子供たちくらいは守れると思う。
胎内で動くのを感じた。
大丈夫と言い聞かせるように撫でるのに、ほんの少し手が震える。
大丈夫…。
そんなわたしでも、しっかり手を握って「大丈夫だ」って言ってくれるのがわかるから。
もう、お腹を抱えていないと歩くのが辛い。ベッドサイドに腰かけていてもお腹がつっかえて苦しくなってくる。
窓の外
五月晴れ
若葉色の匂い
深く呼吸をすると、それを纏う空気が肺を洗い流すよう。
バサバサと羽音が聞こえ、窓を見ると月花が来た。
脚に巻き付けてあるのは耀哉様からの文と地図。
『珠世と愈四郎、悟と桜華の新しい命を匿う場所を確保したので使いなさい。
そこにも知り合いの世話係を用意している。
二人を信じているから、いつか4人で会えることを楽しみにしている』
との事。
急ぎ感謝の言葉を書き留めて月花の脚に括る。
「お願いね」
こちらの準備もできた。
元を断たねば、追っ手はまた必ず来る。
そして、追っ手が人ならば非公式な組織であるからこそ命を奪ってはならない。
つまり、狛治が考えていたこととわたしが考えていたことは同じ。