第14章 命と古傷
小夜子という助産婦が来てから1週間ほどたった。
彼女自身の行動や一人でいる時の様子など、不審がられないように張ってはいるものの、これと言っておかしなことはない。
それどころか、桜華や俺、屋敷の者が好きなものを覚え、話や料理にも出すほどに、気の利いた人間だということも分かった。
珠世さんや愈四郎が人外であることに驚きはしながらも、特に怖がることなく接していることが不思議に思った。だがそれも本人曰く、『怖いと思う気持ちがわかない』とのことだった。
言われた指示通りに従い、怪しい面はない。
隠から聞いた話でも、移動中は一言も発さず頭を下げて礼をする程度だと聞いている。
完全に疑いもしないわけではなかったが、そういった努力や配慮を聞いたり見たりしているからこそ、信じて守ってやらなければいけないと思った。桜華や腹にいる子どもたちのためにも。
今さら、住まう場所を変えてしまうわけにもいかない。
もし、万分の一の確率で俺の直感が当たっていたとしても、今外に出てしまえば奴らの信者やその身内がどこに紛れているかと考えればより見つけやすくなり、被害も大きくなるような気がした。
「はぁ…」
「よう!!」
「……!!!」
思考するのに全神経を使っていたせいで、突然のコイツの訪問に腰を抜かすところだった。
「脅かすな。天元…」
「いやぁ、派手に面白いくらい深く考え込んでたからな」
「…ちっ」
「お、舌打ちしたな?こんなデカい派手な男の気配すら気づかないのは考え物だぞ?」
「天元は忍びだろう…。それに、殺意や敵意のない気には気づかない…やめてくれ…」
「悪戯心は凄くあったぜ?」
「…」
ニヤニヤするコイツの整いすぎている派手な顔を一瞬でもどついたろうかと思ったが、気が萎えた。
「なんだ。まだ朝早いというのに」
「任務帰りだ。嫁らは先に帰らせたぜ」
「めずらしいな」
「大勢で来ない方がいいと思ってよ…」
いつになく、この頃合いに気の利いたことをすると天元の方を見ると、今度は人の良さそうな顔で笑ってやがる。
「なんだ」
「俺の勘だ。あながち、いろいろ考えてることがあるんじゃねぇかと思ってよ」
同じ鬼を狩る人間として、妻帯者として、コイツにはいろいろ気にかけてもらっている。
コイツには話しておこうと思った。