第13章 暗雲
産婦助手として来ている小夜子は、主に買い出しと全員分の食事を作るなど、今蝶屋敷にいる明子の分を補う形として働きながら桜華の体調の見守りなど懸命に働いた。
産屋敷耀哉が手配したという隠が主に小夜子の移動に携わり、行動を日の高い日中にするなど対策をとることも主に狛治が小夜子が来た翌日に決めて手配もした。
人当たりもいい小夜子はすぐに信頼されたものの、屋敷からの出入りが人より多い分、屋敷に住まう5人の警戒は緩めることなどできない。
いよいよ桜華は動きづらさ故に長く立つことが難しくなった頃、隠の女が狛治に耳打ちをする。
「先ほどこちらに来るときに、不審な影があったので少し遠回りをして撒いてきました。
明日からは道順を変えたほうがよろしいかと…」
「わかった。他の隠も呼んでくれ。早々に道順を決めるぞ」
「承知いたしました」
「万が一、場所が特定されていてもまずい。今は移動できない分、そのことも話し合いたい」
「承知しております」
隠が狛治の指示通りに即時姿を消す。
隠がいたその場所に一片の蓮の花弁。
その一点を睨む狛治はマッチを取り出してそれを焼き払い、その灰を踏みつぶしてその場を去ったのだった。