第13章 暗雲
不安定に揺らぐ心は、
勘がいい桜華ならば、もうお見通しだろう。
俺の頬を包む手は優しくあやすようで
大丈夫だと言い聞かせるよう。
だけどまだ、罪の意識が幸せに重い罪悪感をもたらすのが拭えない。
当然のことだ。
俺は多分何度も何度も幸せを得る瞬間に強い罪悪感に押し潰されることがあるんだと思う。
俺がしてきたことはそういうことだ。
俺の手をとり、桜華の指先が俺の手を撫でる
慈しむように
「狛治のことだから、わたしとこの子達のことを考えてくださってるんでしょ?」
「.....」
「この手で、わたしは何度も助けていただきました。
今のあなたの手も心も、本来の狛治です。
でも、今まで、わたしと出会うまでやってきたことは
生きている間ずっと感覚も記憶も罪も付き合っていかなければならない…。
そう思っていらっしゃるの、解っていますよ…」
力強く優しく大事な宝を包むかのように
俺に手を触れる。
胸の中が暖かくなる。
言葉の一つ一つが冷えきってか溜まった心を溶かすようだ。
「一緒に歩いて参りましょう。
罪も思い出も半分こ。お互いに感じて共に育てていく愛も幸せも人数に乗じて増えるものです」
確かにそうだろう。
桜華に出会い、無惨からの支配を感じなくなってから、どれだけの人間と出会い話をすることができたか…
そうやって大事な人間が増えるほど、幸福が巡る水路のようなものが大きくなり、今がいかに恵まれた状態にあるか、それは比べるまでもないことだ。
「わたしは、簡単に死ねなかった人間です。
いなくならないから…、狛治と約束したことは必ず守ります。だからもし危ないことにあったら、すぐ助けてくださいね。
信じて待ちますから…逆でもすぐ助けます。
一緒に生きたいから」
"桜華と共にいきる"
"俺が危なければ助けに来る"
俺が守りたいと思うやつの顔を一つ一つ思い浮かべてみた。
そいつらは等しく、俺に何かあれば駆けつけてくれるような奴だ。
桜華の場合でもそうだろう。
『あの時』とは違う人の環の大きさが頼もしく思える。
「ね?わたしは弱くないし、たくさんの繋がりがある。
それに運もいいんですよ!」
ただの強がりではない笑みが不安や迷いの糸を解いていく。