第13章 暗雲
罪塗れた両手に指を絡ませて握ってくれる。
ひと息つく呼吸の音も、体温も全部が俺へ存在の肯定をしているのを感じて俺の心もこの瞬間に凪いでいく。
なにも言わず、沈黙のなかで
同じ空間にいるのが心地よい。
不安定な心になる何もしていない瞬間は、不安と恐怖で押し潰されそうになる。
だから、一度こうして触れてしまえば、もっと触れたいという気持ちが強くなって
「おいで」
と、膝に座るように促した。
少し頬を赤らめて言われたように体を俺に預けてくれる。
腹にいる我が子ごと抱き締めて、その肩に顔を埋める。
あの洞窟で同じように抱いたときより高い体温と安心する桜華の匂いが
思いがけなく強烈に胸を締め付けて涙腺がいたんだ。
「狛治....」
『おまえはやっぱり俺と同じだな。何か守るものがないとだめなんだよ。
お社を守る狛犬みたいなもんだ』
その通りですよ。師範...。
俺は、また守りたいものができて、増えて
その一番に当たる桜華を失うのが堪らなく怖い。
桜華自身も鬼への警戒をしている。
それを解っているから不安と緊張があるのだろう。
もうすぐ生まれるとしたら、その瞬間が危ういだろうと考えているようで俺も警戒している。
だが、どうしても思ってしまうんだ。
この血濡れた罪人の手で
我が子を抱くことが俺に許されるのか
その権利を得た俺に天罰が下るんじゃないか...
どうしようもなく渦巻く不安に押し潰される気がして
目の前の柔い首筋を噛んだ。
「いっ…!あっ...」
抑えきれそうにない。
許して欲しい。
全部失いたくない。
強欲な人間になったものだと心のなかで嘲笑する。
あんなに命を奪ってきたというのに...
「狛治?」
「いなくなるな...いなくなるな、絶対に....」
奪うくらいなら最初から、間違わずに俺を殺して欲しい。
涙が溜まるのを阻止できない。
抑えていたものが崩壊するようだ。
情けない。
こんなにも感情をかき乱して…。
一瞬見えた桜華の表情は哀しみを含んだ驚いたもの。
構わずその唇を奪ってしまって溶けてしまいたかった。
いつものように薄く開いた瞼の奥、赤い瞳には流す涙を隠せない。