第13章 暗雲
昼、屋敷を訪ねてきたお手伝いの方は、実田 小夜子という齢25の女だった。
小柄で標準的な体型ながら、不安にさせない何かを感じるほど、自信と優しさが彼女にはあるように思った。
朗らかに笑みを浮かべ人の良さそうな明るい感じは少し明子に似ているのかもしれない。
「今日からお世話させていただきます。よろしくお願いいたします」
「よろしく頼みます」
隣で狛治が探るような眼差しを彼女に向ける。
その様子が気になり袖を引くと、視線は小夜子にむけたままであるが、優しく諭すように手を重ねた。
「悪いが、いくら珠世さんが連れてきた相手だろうと、簡単に信じることはできない。
だが、人手が足りないのも事実。
わかってはいても、俺が追われる身である以上、妻に危害が及ぶことを恐れているんだ」
「深くは聞き及んでおりませんが、こちらも特異な事情があることは存じております。
こちらに来る際も、特別な方により目隠しで連れてこられました。
それに、大事な奥様です。お気持ちは十分理解できますし、無理して信じていただくことは望んでおりません。
ただ誠心誠意、精一杯勤めさせていただきます」
床に膝をつき、手を添えて深く頭を下げた。
「改めまして、大事な奥様の産前産後をお支えいたします。どうかよろしくお願いいたします」
「あぁ。頼む。」
「小夜子さん。ありがとうございます。夫は普段は仲間思いの熱くて優しい人です。
あまり気を張らないで。
どうかよろしくお願いしますね」
朗らかに笑みを浮かべたまま誠実な対応でひとつも動じることのない姿に、珠世が彼女を選んだ訳が分かったような気がした。
挨拶が済むと台所へと向かい、いそいそと仕事始める。
その後に出された甘味はあんみつで、見た目も味もホッとするような味だった。