第13章 暗雲
落ち着きを取り戻した狛治も話に加わり、桜華のこれからのことを話した。
「桜華さんがお生まれになるときも、あと一人助手として出産に立ち会ったのですが、今回も双子のご出産になるので、一人助手と乳母を務める女性を呼んでおります。
わたしの方で素性など調べておりますのでご心配いりません。」
「だとしても、油断は禁物だろう。話は聞いていたが、桜華が生まれた頃と今では状況が違う。
裏切った俺を付け狙う鬼がどんな隙を見て入り込んでくるか…。
相手は鬼だけではない。十二鬼月ならば、人を操ってでも探索するヤツはいる」
「存じております。出来るだけ、私と愈史郎、そして悟さんが常時桜華さんと離れず付くようにいたします」
「俺も共にいる」
「でも、稽古は…」
「桜華と子どもたち、皆の方が大事に決まっている」
桜華は狛治に直前まで稽古に打ち込んで欲しいと思っていたし、稽古に楽しそうに打ち込む姿を見ていてそのようにするのだろうと思い込んでいた。
しかし、その言葉を口にすると間髪いれずにそう答えたのだった。
「みんな、こっちの事情は話している。夜が明ければしばらく休むことを伝えるだけだ」
「ありがとうございます」
「お手伝いの方には、ご本人のはずせない用事以外はこちらにお泊まりいただこうかと思っておりますし、その方の警護を含め、悟さんや明子さんとも話がまとまっております。
それに、明子さんが信頼できる方をお呼びしていると仰っておりました」
「それはありがたい。」
自分が留守の間に、話がこうもまとまっていたことに狛治は感謝以外の言葉がなかった。
体調を桜華に心配されても、稽古をつけることや隊士たちとの交流、桜華の身の回りのこと、どれも手を抜きたくないというのが狛治の思いである。
「そろそろ、いつ生まれてもおかしくないのだな」
「はい。今のところ異常なく、母子ともに健康な状態です。しかし、お産が終わるまで何が起きるかわかりません。
狛治さんが桜華さんの血液と同じ型なので、これから少しずつ血を採らせてください」
「わかった」
黒い風が勢い良く吹き抜けた。
3人は無言のまま、黒い雲に隠れていく月を見上げる。
「一雨降るかもしれないな。部屋に戻ろう」