第5章 傷と罪は共に背負うモノ
映像は急速に流れるように別の場所へ。
『薬屋』
とかかれた看板に紅梅色の着物の少年が立っていた。
「先生、薬代持ってきた。入っていいか?」
少年の声。
聞き覚えがあるのに思い出せない。
いや、
知ってるのに思い出すことを止められているような感覚がする。
程なく初老の男性が少年を部屋内に招き入れ、引戸が閉じられた。連れられるように視界もそれについていく
「君はまた無茶をしたんだね?
それじゃ、親父さんも喜んじゃくれないよ?」
「関係ねぇ。先生に何がわかんだよ!
俺には親父しかいないんだ!」
顔がぼやけてよく解らない。
でも少年の手首には二重に藍の入れ墨が巻かれるようにかかれていた。
そう言えば昔、江戸では掏摸の罪人の証としてそういう罰があったと聞く。
罪の根元は必ずしも悪い心じゃない。
この少年を見ててもそうだ
なのにどうして罪を犯した人はその結果に至った過程を見てはもらえないのだろう。
救ってはもらえないんだろう
胸が引き裂かれそうな思いで息が詰まる。
その時代も自分の先祖は資産家だったと聞かされている。
その裏ではこうした悲しい世界もたしかに存在していたと思い知らされる。
きっと、そういった人たちを少年は憎んだだろう
恨んだのだろう。
手をさしのべたくもここは過去で映像の世界
誰が見せているのか解らない。
ただ、目の前の映像は焼き付けておくべきなんだと悟り、見届けるしかないのだと思った。
暫く物思いに更けてると、少年と薬屋の話が終わったようで、引戸を勢いよく開け放ち、少年は再び走り出した。
自分は動いている感覚がないのに、少年の後ろを追っていく。
少年が行き着いた先は、古びた長屋の様なところだ。
「親父!今帰った。」
「お帰り。入りなさい。」
中からかすれた低く優しい声。
あぁ…やっぱり、似ている。
だけど、
思い出させてもらえない。
引戸が開けられると顔はやはりぼやけていたけれど、
かなりやつれた様子の
武士か何かの役人のような装いの男性が
布団から起き上がって少年を見ていた。