第13章 暗雲
珠世に座るように促すと、珠世は桜華の横に静かに腰かけた。
どこからともなく、愈史郎が茶を持ってきて二人の前に並べ置く。
「体に障る。暖かくしろ」
相変わらずも仏頂面のまま去っていった後ろ姿に、感謝し頭を下げると、再び静かな二人の夜になる。
「今回、お二人お生まれになるので、乳母と助産のお手伝いを手配することになりました。
今日のお昼には、この屋敷においでになりますよ」
いわれてみれば、母が兄弟を産む際も、愈史郎だけでなく他にその時ばかりのお手伝いが来ていたように思う。
最近、暖かくなって鬼殺隊の仕事も増えてきたことで、胡蝶姉妹も忙しいうえに、カナエの方は長期任務だ。
明子さえも人手が足りないと蝶屋敷に手伝いに駆り出されて今の共同生活になっている。
我が子がいつ生まれてもおかしくない状況で、手伝いが必要になるのも頷けた。
「そうですか…。
珠世さんが連れてきてくださる方ですし、何も心配はありません。
どうか、よろしくお願いいたします」
「はい。カナエさんにも、桜華さんがご心配されているのでと…。
もちろん、大切なお身体ですし、今ご心配されてることも懸念して、あらかた身辺情報は確認しております」
「ありがとうございます」
しばらく茶を飲んでいると、寝室の方から乱雑に戸を開ける音が聞こえたかと思うと、こちらに急いている足音が聞こえてきた。
「桜華!桜華!!」
慌てた様子の声に、ふたり顔を見合わせて笑い合う。
声のする方を見れば、声色からうかがえる様子そのままの狛治と目が合った。
「あら、いらっしゃいましたね」
「あら…」
手招きすると、落ち着いた様子で笑みを浮かべてこちらに来る。
「あ、あぁ…そうか…。驚かすな。いなくなっては心臓が持たない」
「わたしに何かあれば、助けてくださるのでしょ?」
「…っ!当たり前だ。だから声をかけてくれ…。夜はいくら愈史郎が血鬼術で隠していても、強い鬼には見破れるのだぞ。」
肩に置かれた手が少し震えていて、少し心配かけず儀てしまったのだと反省して眉尻を下げた。
「申し訳ございませんでした」
「いい…」
珠世と反対側に腰かけると大きく息をついて、その手はわたしの右手を包み込んだ。