第12章 血戦
「狂快。貴様を上弦の参に召し上げる。精進せよ。われのために尽くすのだ…」
「有難き幸せ…。狂快、無惨様の名に恥じぬよう、精一杯精進し、御身に尽くします…。」
「よかろう…数十年ぶりに気分がいい。我が血を喰らうことを許そう」
無惨の肉塊がぶすりと狂快の頸に刺さる。
「あああぁぁぁぁぁぁ!ぐあぁぁぁぁぁあっ!無惨っ様の血…。ァァァァァァっ…。」
恍惚とした眼差しに苦悶の声が城に響く。
どろどろと赤いオーラが禍々しく渦巻いた。
「鳴女…。琵琶を鳴らせ…。私は最高に気分がいい…。」
「承知いたしました……」
禍々しい無限城がギシギシと軋む。
琵琶の音が激しく鳴り響くのは、無惨の心情の激しさに共鳴したものと同義。
その重圧に耐えるかの如く、手をついて首を垂れる上弦の鬼たちは、無惨の圧に呼吸もできないほど。
肉塊が狂快を離れると、無惨は白いワイシャツの研究者の姿に扮する。
「黒死牟は良い働きをした。これにてあの鬼に加担した罪を放免しよう。他の者も我のために尽くすのだ。」
「ははっ!」
琵琶の狂演が城中に鳴り響く。
バタバタバタと襖が幾重にも渦巻いて閉じていき、無惨は姿を消した。
万世極楽教
本寺院。
体を沈ませる座椅子に帰ってきた童磨は、被り物を被り、襖の奥にいる気配に入るように命じた。
「ふふふ。いいものを見たね…。俺も頑張らねば…」
「教祖様…。新しく入信したいという者が参りました。
それと、『良い知らせが入った』と松乃が帰ってまいりましたが…。」
「う~ん…。どちらも気になるねぇ…。だが、やはりお客人が先かな?」
「かしこまりました」
襖がパタリと閉まると、童磨は頬杖をつき、笑みを浮かべた。
「さぁ…、俺も初めてお役に立てるのかな?」
正面の襖がスッっと開く。
蝶の髪飾りをした白装束の女子がそこに首を垂れていた。
「おや…珍しいこともあるようだね。」
鉄扇で口元を隠し、その下で糸切り歯がギラりと鈍く光る。
目元には創られた優しいほほえみの眼差しを女子に向ける。
「よく来たね…。こんな山奥、さぞかし疲れただろう?」
「いえ…教祖様とお会いできるのであればこれ以上に心が躍ることはありませんでした」