第12章 血戦
憎珀天の重苦しい憎悪と狂快の闇暗い笑み。
一触即発のままお互いの出方を見守る。
双方の緊張感が最高潮に達したとき、動き出したのは憎拍天だった。
頭上の連鼓を獣刃のバチでかき鳴らし、樹木の龍頭『石竜子(トカゲ)』を召喚する。
幾重にも別れた石竜子が、狂快の周りを取り囲みザワザワと逃げ道をふさいでいく。
「狂鳴雷殺」
「眩しいなァ…ゴロゴロとうるせぇんだよ」
狂快を取り囲む結界が雷の攻撃を防ぎ、耳をつんざく雷鳴もただの音に変える。
「その結界、打ち破ってくれる」
石竜子が狂快の頭上にズズズと高く上り、遥か高い位置で泊まると、その顔面が真下にいる狂快を見下ろした。
「狂圧鳴波」
5体の石竜子が音圧をかけながら急降下して向かってくる。
結界を作っていた竹柱が槍の形状になり、石竜子に向かっていく。
音波を発動させるために開いた口の奥に伸びて、バチバチとすさまじい音を立てながら、閃光を放って辺りが激しく白む。
目を開ける事すらできず、思わず目をつむる観衆の真上で轟音と共に爆破した。
破壊の限りを尽くす戦闘で、他の上弦が見下ろしていたところだけが、各々の血鬼術にて守られた。
煙が晴れると、童磨の喜々とした笑みが二体の鬼を捉える。
「これはこれは…。楽しいねぇ、黒死牟殿」
「…。」
静かに三対の目は同じく下を見下ろし戦況を見守っている。
「う~ん、相変わらずつれないなぁ…」
鉄扇を口元に当てて、再び下の戦況を見守る。
すでにそこには、憎拍天の姿はない。
「これは…勝負あったかな?」
「…。」
無惨の後ろに控える鳴女は琵琶をかき鳴らし、破壊された城の一部がみるみるうちに真新しく生まれ変わっていく。
静かに頬杖をつく無惨は、無表情にうっすらと笑みを隠す。
その表情は狂快に対してか、期待以上という評価を見せているように思えた。
煙が晴れて、狂快はまだ無傷どころか、力の消耗すら感じられない。
「小さくなっても無駄だ。すでに俺の竹の根はお前の行動範囲全てを把握し、居場所を掴んでいる」
「ぎやぁぁぁぁぁ!」
耳をつんざく悲鳴の場所を振り向けば、結界の紙垂が青く光を放ち、小さい半天狗本体の姿を捉えていた。
身動きすら取れず、恐怖に怯えガタガタと震えている。
「勝負、ありだ…。」