第12章 血戦
辺りが禍々しさを一段と濃くして、空気がよどむ。
ゆらゆらと燻る霧を纏う風が冷ややかに辺りを包んだ。
シュシュシュシュと風を切る音がしたかと思えば、狂快と対峙する二体の鬼は、いとも簡単に切り刻まれていた。
「最初から、全力出してみてくださいよ。老いぼれさんたち」
「ほう…。これかこれか…。実際に見てみれば…。」
挑発の言動を気にも留めないのは鬼ゆえだろうか。
玉壺はじゅるじゅるじゅると気味の悪い音と共に素早く再生し、半天狗はそれぞれ分割された箇所から4体の鬼が出現した。
「面白いのぉ!面白いのぉ!!見えない斬撃でここまで威力があるとは…!」
「何も面白くない。可楽。不愉快でたまらぬわ」
「我々を解放すれば5対1で不利となるというのに…。頭が弱いとは何とも悲しいのぉ…」
「カカカッ!喜ばしいのぉ。貴様らと解れて戦えるとは」
それぞれが狂快を取り囲み、実質上対峙するのは狂快1人に対し、敵方5対。
それでも、一切怯む様子も見せずに、不適の暗い笑みを浮かべている。
5人の鬼の背後、バサバサと音を立てて地面から紙垂を付けた縄で結われた竹の群衆が生える。
「鬼神結界・引力拡散」
5対の鬼が、重力に逆らえず、竹柱に引き付けられ、教会に向かって進むことが出来なくなる。
「何だ。これは…」
状況が読めないのは、狂快自身が今まで下剋上を起こすために隠しておいた秘術であればこそ。
二ヤリと笑みを浮かべては手のひらを鬼たちに翳し、ぐっと握った。
「霧散」
半天狗の分身体である空喜と哀絶は血飛沫を上げて破裂するように粉々になった。
積怒と可楽が寸で避け、玉壺は壺によって退避。
すかさず反撃に出る。
「空喜、哀絶!何をしておる!」
「楽しいのぉ!楽しいのぉ!同じ重力とあらば、これはどうだ?」
狂快の頭上、羽団扇を扇ぐ可楽が反撃の一手を加える。
「話にならん。遊重心・千矢葉針」
「がぁっ!!」
見えない笹の葉の刃が可楽の羽団扇を割き、可楽自身を貫いた。
「血気術・一万滑空粘魚」
「引力拡散・霧散」
玉壺が一万の毒魚を放っても、重力を操られれば、己に帰ってくる。
しかし、それを避けても次の攻撃は決して当たることはない。
狂快が出現させた結界の外、大量の錦鯉はその図体を生かし、竹が囲む結界を破壊しようと進みだした。