第12章 血戦
「ねぇ、お兄ちゃん。あんなぽっと出の奴なんかに”参”が与えられるなんて、どう考えてもおかしくなぁい?」
狂快が”観客席”と評する部屋の列の一角に、長い艶やかな帯を纏う長い黒髪を簪で飾る女鬼が嘲笑う。
話を振られた兄鬼も同様に肩を揺らし嗤笑している。
「あぁ…妬ましいなぁ…妬ましいなぁ…。上背もあって、良い体して…。こんな訳の分からねぇ絶好の機会にのし上がってきてよぉ~…。」
「ねぇ、お兄ちゃん。もし万が一に間違いなんて起きちゃったら、私たちでアイツやっつけちゃう?」
「あぁ…。だが、上弦の壱が直々に選んだんだ。様子見してから判断する。おまえはちっと黙ってろ」
なによ。頬を膨らまし視線を戻す。
高まる緊張と、狂快へ向けられた冷徹な視線がその場の雰囲気を禍々しいものへとかえていく。
「無惨様が、御見えだ…」
いち早く主の登場に気づく黒死牟の声にさらに上の部屋を見上げた。
「新たな上弦の参にふさわしい鬼を選定する。
玉壺が勧誘し、黒死牟が選んだこの鬼は、鬼になってよりまだ日が浅い。
だが、謀反者の仕業か、こちら側がやられる確率が高くなっている。
こちらも適任者がいれば、急ぎ”穴”を埋めなければならん」
無惨が間を置くと、部屋が複雑な動きを伴い、観覧と戦闘の域を引き離していく。
同時に無惨に向けて頭を下げる上弦達。
「玉壺、半天狗。狂快の相手をせよ。二人の鬼に勝てば、狂快を新たな”上弦の参”とする」
玉座の席で目を吊り上げたまま見下ろす無惨は、間を開けた瞬間に紅梅色の瞳を禍々しい色に堕として口角を吊り上げた。
「負ければ、止めを刺した鬼が狂快を喰らい、勝てば、狂快に血を分けてやろう」
「御意」
「ありがたき幸せ」
狂快のみ、表情を崩さず悪い笑みを浮かべたまま。
推薦した黒死牟以外の誰もが新参者で位のない狂快の負けを疑いもしなかった。