第12章 血戦
「猗窩座殿が謀反を起こして上弦の参の位が開き、私も出世できると息巻いていたというのに…。
しかし、貴様は私が鬼に選んだのだ。
お前が半天狗に負ければお前を食うことを特別にお許しいただいた。
勝てば私めの見立てが良かったと…。無惨様の一助となれる。
どちらにしても、気分がいい…。気分が…いい!!」
「ひとりごとなら、アイツらと同じ観覧席で勝手にやってくれや」
「生意気が許されるのはお前がわたしが選んだ鬼だからだ。
今気分がいいからなぁ…。
はぁ…負けておくれ…やはりそれが一番いい…!!」
頬を赤らめて高揚する玉壺を鬱陶しく思う刹那、狂快の手刀がその首を飛ばした。
「ほほぉ…これはこれは…」
ぐちゅりぐちゃりと思を立てて単細胞の集合体の如く再生していく。
気配なく、血が噴き出した。
それは時間の差異から今しがた首をはねた玉壺のモノではない。
ジワリと血が滴る感覚で見下ろした腕は半分。
鋭利なもので切断されたそれが自分自身の腕であることを認識した刹那、腕を振って物の一秒足らずで再生を果たす。
「まだ…位の持たぬ者が、序列の乱れがいかなることかを理解できぬのか…」
狂快の腕を切断したのは上弦の壱、黒死牟。
赤い目は見開かれたまま、その強さゆえの威圧感が空気すら軋ませる。
静かに目を後ろにやり、挑発するようにねめつけた。
「はっ…。今に勝ってやるってのに、そんなこと気にするのか」
「確定していないことを、喜々として起きたことのように話すな…。
お前はまだ、位さえ与えられていないことも、
その身が滅ぼされることもあり得る立場だ…。
それを忘れることなど許されぬと思え…」
恐気を感じないのも、その重圧を伴う禍々しさを目の前にしても、至極冷静に笑みさえ浮かべている。
「安心しろ。その分、お前の事もいつか殺してやるからよぉ」
「笑止千万…」
ふっと気配と共に定位置の部屋へと戻る。
気配と声があるものの、どこかに隠れているのか半天狗の声が聞こえた。
「出てこい臆病者。お前は今宵俺が倒し、俺が上弦の参を奪ってやる」
「ひぃぃぃぃ!!ぶ…無礼な鬼じゃ…無礼な鬼じゃ…
だだだ大丈夫…儂には勝てやせぬぅ…」
城の階段を恐る恐る下りながら、這うようにして狂快の前へ歩み出る。