第12章 血戦
その頃。
琵琶の音と共に、鬼が召喚される場所は無限城。
目が回るほどの無秩序な空間を真っ逆さまに下りていく。
「面倒くせぇ…」
共に召喚された鬼の体には背中に大きな虎を飼い、それを纏うように幾重にも描かれた竹と風。
全身にも及ぶそれは上弦の伍・玉壺がお気に召した芸術的なものである。
剃られた頭部と眉。深緑の瞳に黄色い眼球は血走った血管で黒い線が浮いている。
眼球に位は刻まれていないものの、その鬼は黒死牟により上弦の参を埋めるために選ばれるほどの急成長を遂げた鬼だった。
上半身裸に深緑色の軍パンのようなものを着たこの男鬼は狂快という。
無秩序に配列している部屋は列ごとの動きでの移動で深層部へと目まぐるしい速さで導かれていく。
着いた先は広い空間。
外から持ってきたような荒野のようなそこは、戦うために用意されたものだ。
そこに足をついた刹那、遥か高いところにいる琵琶の鬼の姿に目を止めた。
「あぁ?ここが競技場か?随分豪勢なこって…」
「…」
琵琶の女鬼は狂快の言葉に反応はせず、ただ、指示を与えた主と他の鬼を待つ。
明かりがチカチカと揺らめく音が背後から聞こえると、狂快を見下ろすにちょうどよいところで声が聞こえた。
「いやいや、ここに呼ばれるのは思ったより早かったね。黒死牟殿は凄いなぁ…。俺も頑張らなきゃ!」
笑を張り付けた明るい声の方を見れば、血を被ったような頭に袈裟のような羽織を召した鬼がそこにいる。
「やぁやぁ、初めましてだね。狂快殿。俺は童磨。なかなか見事な刺青だね…。玉壺殿が鬼にしたがるわけだ。」
「呑気な声で声かけてんじゃねぇ。いづれはそこに立ってやるさ。首あらって待ってろ」
「狂快殿は面白いね。まぁ、俺も早く出世した方だし精進したまえ」
気配がしたと足元を見た瞬間にごとりと音を立てそれが着地した。
狂快が見知る柄の壺。
ガタガタと揺れては、小さい手からぬるぬると這い出てきたのは玉壺だった。
「いやはや、こんなにも早い出世だとは…。私が紹介したとはいえ、嫉妬心に燃えるぅぅぅ!!
なんとご無体な…。しかし、それもいい…」
「お前は観覧席じゃねぇのかよ」
嘲笑うような冷たい笑みが向けられても、恐怖など感じずに飄々と声色を変えて話が止まらない。