第11章 新しい芽
打ち合いの音が屋敷から消え、
寝室からは暖かい日差しと若草の匂いを纏った風音だけがカーテンを揺らしている。
遠くを見ながら、先ほどから一言も発さない桜華を前に、淡々と胎児と桜華自身の検査を進めていた。
採血が終わり、それを詳しく検査するためにしのぶが席を話すと、桜華はひとつ息をついた。
「ねぇ。……カナエさん」
「はい」
穏やかで静かに横たわる桜華の目は、どこか真っすぐと見据えているようで、何かしらの強い意志を感じた。
カナエは手を止めて、ベッド脇の椅子に腰かける。
「どうなさったの?」
「狙うなら、今だと思うの…。わたしたちを。
彼らがどこかで見ているなら」
窓を見つめたまま、どこか深刻そうな様子から、カナエは鬼の事を言っているのだと察した。
「……どうして…、そう思うの?」
「勘です。でも、この静けさにどこか重苦しさを感じます。
おそらく、これから3ヶ月以内には何かしらあるでしょうね」
「狛治さんがいても心配?」
「狙うなら、狛治をおびき寄せるように、最初にわたしを攫うでしょう。
だから、彼がいないときにことは起きると思う」
いつもは自分の身よりも相手を優先する桜華が自分が攫われることを危惧するように思えない。
だからと言って、我が子への危害よりもどこか狛治を心配しているようにも思えた。
「どうして…必ず狛治さんもわたしも必ず桜華さんも生まれてくる赤ちゃんも守るのに、そこまで心配してるの?」
「狛治は大昔人間だったころ、自分の目の届かないところで大切な人を3人も失ってるから…。
わたしが彼に助けられたとき、約束したんです。
わたしが死んだ姿は絶対見せないって…」
「大丈夫よ。桜華さん。その大昔の頃の狛治さんの周りにどれだけ味方の人がいたかはわからないけど、
確かなのは、今、すぐ駆けつけてくれる仲間も、伝えてくれる鴉もいるじゃない。
どんなに取り乱しても、冷静を取り戻して、必ず二人とも生きて戻ってこれる結果になるわ」
「そうですね…。確かに、駆けつけてくれる人が今はいっぱいいらっしゃる。
そう…ね」
「だから、安心して。
まず、鬼のところになんて行かせないから。ね?」
「ありがとう…」