第11章 新しい芽
「いや、ここに来た価値はあった。」
来た価値があったという実弥の言葉に口角が上がる。
目の前の男の師範の顔に戻ると、ここに連れてこられてきてくれた礼でもしてやろうと思った。
「そうか…。遠慮するな。桜華が言ってたようにお前には柱になる素質がある。鍛錬も人一倍努力していて呑み込みが早い。手合わせでもいいし、この際何でも聞いてやる」
「なんでも…」
「あぁ。”なんでも”だ。」
しばらく考えるように目を伏せる実弥は、如何にたくさんの、強い鬼をこの手で殺ろうかがその羽織の背に表しているくらいの男だ。
強くなろうと望むこの男が望むことでここでできる事なら何でもしてやろうと狛治は思った。
しばらく考えて顔を上げると、
「俺は、まだ師範の全力を見ちゃいねぇ。叶うなら、それかそれに近いものを見たいと思ってる。」
「それがお前の望みか?」
「あぁ。俺はまだまだ強くなって、鬼を切って切りまくらなきゃならねぇ。」
「…いい心がけだ。」
ガチャリと金属音を立てて狛治が立つと、部屋に残る3人を見渡した。
「3人で俺にかかってくるか?」
「ほぉ…」
「当然だ。十二鬼月、上弦ならば、柱が3人束になって倒せるかどうかというところだろう。ここには3人いる。3人で俺を倒しに来てみろ」
実弥も匡近も、狛治の余裕ある様子に一瞬圧倒するものの、すぐに戦う顔になる。
宇髄が「面白そうだな」と立ち上がると男たちは広い庭に出た。
それぞれが立ち位置に着くと、緊張感が増してピリつく。
3人が木刀を狛治に向けた途端、更に空気が重くのしかかった。
いつもどこか愁いを帯びたような狛治の様子が戦う鬼人へと変貌を遂げる。
しかし、狛治の表情や纏う雰囲気は植物のような無。
それが”異次元”を引き立たせ不気味さえ醸し出している。
二本の握られた短い木刀がぎしりと軋む音がした刹那、対する二人の風と音の呼吸音が響く。
ピンと張った緊張の空間には、風の奏でる音など聞こえる隙もない。
息もつく間もない静寂を切り裂くように、3人は走り出した。
「音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々」
「風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ」
「風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹」