第11章 新しい芽
和やかに話が進む中、不死川だけはずっと険しい雰囲気を漂わせていた。それに気付かぬ桜華ではない。
身重な体で立ち上がっては不死川の横に座った。何事かと桜華を横目でちらりと見る。
「匡近さんに、引っ張られていらしたのでしょ?退屈をさせてしまって申し訳ございません」
「いや、いい。ただ、賑やかなところが苦手なだけだ」
「そうですか?ホントに?」
「なんだよ」
桜華が赤い瞳で実弥の目をじぃと見た。
居心地が悪そうに目を背けるが
それでもどこか、実弥自身の見られたくない内面を探られているような気がして目を反らしたくなる。
「コイツ、いつも難しい事ばっかりで、鬼狩りの事しか考えてないんですよ…。
ここに来るときも、俺が引っ張っていかなきゃ絶対ここには来なかったくらいで…。」
「別に俺一人くらいここに来なくたっていいだろ」
「いえ…来ていただけなければこちらから伺うつもりでした」
実弥は驚いたように桜華を見た。
「その身なりでほっつき歩くもんじゃねぇ」
「ですから、来ていただいてよかったと思ってるんですよ」
表情を買えず穏やかなままは人の心や雰囲気を包むかのようだった。
実弥の手前にある飲み干された湯呑みに茶を注ぐ。
「貴方は、上に立つ…いえ、誰よりも先陣を切って誰かが傷つく前に突き進む方なんでしょうね。
険しい顔をされていらっしゃっても、心はすごく暖かいように思います」
視線を合わさずとも、実弥の眉間には皺が刻まれていることを感じた。
「わたしもそうです。今はこのようにわたしの体のなかに宿る命がありますから、そのような無謀なことはいたしません。
でも、子に災難の火の粉が降りかかる前にわたしが先陣を突き進む覚悟はあるのです」
視線を合わすことなく、子を撫でるように愛おしげに腹を撫でるその手から目が離せない。
独特の武具から作られるいびつな戦う手は、実弥の記憶の中の守りたかった人の手と重なった。
「その覚悟を持ってる人には、同じ志をもつ人と支えてくださる方を引き寄せ、やがては人の上に立つ柱となるでしょう。
実弥さんにはその資質を感じます」
腹を撫でていた手が、実弥の腕のできた新しい傷をそっと撫でる。
それを払えずにただただ暖かさが心に流れた錯覚がした。