第10章 天照手記ー魂の記憶ー
その一太刀は黒死牟の頸の深くまで入ったが、あと一太刀を放つことなく縁壱の魂は旅立たった。
黒死牟は暫くそこに留まり、遺体を切り刻んででた遺留品をひとつ懐に入れ、姿を消した。
暫くして、夜が明ける頃、鬼ではない人の影。
齢七十ほどの男性の影は、背丈は六尺は超えており、骨格は黒死牟に瓜二つ。
すすり泣く声を上げながら、縁壱の切り刻まれた遺体を並べては、後から駆け付けた男たちと共に持ち去った。
珠世がその次の夜、日神楽家を訪れ縁壱の遺体を確認。
その時にその老人は名前を名乗らず立ち去った。
ただ一言、「桜華に一人で戦わせてしまった。」と涙を落して。
日神楽家の当主が、老人が去った後に縁壱の遺体の前に戻ると、そこには、桜華が肌身離さず持っていた笛と同じように作られた古びた竹笛が置かれてあった。
それに老人の正体を察した当主が追いかけるも時すでに遅し。
次の日には縁壱の葬儀が行われたのだった。
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珠世追記
縁壱様の葬儀の後、鬼狩り様が次々と何者かに殺されるという事件が数年の間に渡り多発。生きて戻る鬼狩り様はおらず、その正体を見たという者すらいませんでした。
刀鍛冶の者も次々に殺されました。それは黒死牟が鬼となる前に縁壱様に関わった者、家、全てを焼き払うという惨事も伴って。
それを恐れて鬼狩りの生業も捨てる者が相次ぎ、縁壱様がおられた頃に存在した鬼狩り様の殆どが命を落としました。
産屋敷家と日神楽家は縁壱様と桜華様が話し合われたように、二人が他界されてから30年会う事を避け、その間に宗寿郎様とその奥方様が煉獄家を引き継ぎました。
日神楽家は4代当主様が育手となられ、御存命中300名あまりの鬼狩り様を育てられ、”鬼狩り”の火を絶やす危機を脱しました。
その後も三度も存続の危機を脱したのも日神楽家、産屋敷家が共に手を携えてきたからにほかなりません。
そして、明治。
桜華様の今の御父様となられた縁壱様は10歳の頃、前世の頃を思い出され、わたしの元に参りました。
お二人が鬼のおらぬ世にしてくださることを信じて、最後まで共に戦いますことを誓いといたしまして、この書を引き継ぎます。
______珠世より。