第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「有り得ぬ........。何故、生きている?」
「皆死ぬはずだ...。二十五になる前に。何故お前だけが...。」
あぁ。兄上だ。
鬼になっても尚、私ばかりでなく鬼狩りの仲間のことも覚えておられた。
あなたと桜華を人の姿のまま会わせてあげることが出来なかった。
鬼になどなって欲しくなかった...。
否、兄は鬼にならざるを得ない程苦しかったのだ。
人として生きること
人として死ぬこと
私が
私が
兄を堕としてしまったのだ
「お労しや........。兄上........。」
兄は暫く驚いた様子で私を見ておられた。
兄は今、私を見てどのように思うておられるのだろう。
その涙が私に対しての想いならどんなに嬉しかろう。
あぁ。聞きたかった想いも山ほどあるというのに、命の灯がもちそうにない。
あなたにとってどのように刻まれようとも
その体に、渾身の一太刀で深く強く刻みたい。
あなたの残していかれた娘の思いも
私のやり切れぬ思いも
あなたを桜華が迎えに行くその日まで。
刀に力だけではなく、桜華の想いも、どこかにいる巌正の想いも、私の全てを込めた。
刀身の温度がぐつぐつと上がるのを感じる。
同時に全てが体の芯を燃やしては刀を持つ筋に勢いよく血液を送った。
兄の頸。
兄の動き。
寸分も逃さない。
「参る。」