第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「私は安心している。桜華も勿論そうだ。其方らを見て”もう出る幕はない”と言っていた。
今日、私が出向いたのは、最期の挨拶だ。日神楽家はこのまま、あの二人がしっかりと繋いでくれると信じている。」
「最期の挨拶とは...?私どもは大祖父上をも丁重にお見送りさせていただきたく思うておるのですが...。」
少し焦ったように眉尻を下げ、身を乗り出す。
それはそうだろう...。桜華が残した子供たちは皆が心優しく、そして機転がきいて深慮深い。
ハッキリ言わずとも、私の探し求めていたことにも気づく。
ただ、じっと目の前の男を強く見た。宗寿郎は、少し顔を青くして、
「見つかったのですね...。」
と言った。
「引き留める事は致しませぬ。大祖父上なりのけじめであらせられましょう。それに、大祖父上は、その方を一太刀で終わらせることなどできぬほどに苦しまれてきたことも存じております。」
「...。」
「会ってきてくださいませ。見せつけてきてくださいませ。祖母上は立派だったという証を。そして来世、必ずお二人でお迎えに上がるのでしょう?」
「知っておったのか?」
「はい!ただし、今回だけは私共が大祖父上をお迎えに上がります。」
「身勝手ですまぬ。」
「大祖父上はもっと欲張ってよろしいのです!!大祖父上には沢山可愛がっていただき、育てていただきました!ドンと任せてくださいませ!!」
膝立ちになって、胸板を強く拳でたたきながら笑って見せた。
それがどこか桜華と重なっても見えて、胸の底がじわりと暖かい。
まだ、若年のこの者にとってこの話はまだ重かろう。しかし、この者が、もしもの時に煉獄家に戻らせることになっている。
「ありがとう。其方には他の兄弟たちとは別の試練が待っている。その覚悟もあるだろう。私の蒔いた種だ。気苦労をかける。」
「そのようなことは御心配には及びません。父からも物心ついてよりずっと言われ続けていることでございます。必ず私の受け継いだ呼吸術を次に繋げます。兄弟たちと多くの呼吸術を継承していきます。それが為せるのは大祖父上様がご存在して下されたからではありませんか........!」