第10章 天照手記ー魂の記憶ー
桜華の葬儀が終わり、初七日を終えた日の事だった。
鴉からの知らせで兄と遭遇したという知らせが入る。
鉢合わせた者は柱二人を含むが太刀打ちできずに命を散らしたという。六つ眼になってこれまでにない禍々しい鬼となっているということだった。
生き残った者が鴉に伝えたこととあるが、その伝えられた容姿や背丈などから、その鬼が兄であるという確信が強くなる。
私の最期の仕事になる。
直感的にそう思った。
屋敷を片付け、最後の旅の身支度をする。
そして、あくる日の夕暮れ、日神楽家でも煉獄家の血を濃く引く子孫である宗寿郎を呼んだ。
「大祖父上様。お呼びでしょうか。」
今年15になる。杏寿郎に似て凛々しく常に背筋が伸びて責任感の強い者となっていた。
「常日頃から其方に言っていたな。私が死ねば、鬼狩りは滅ぼされると。」
「はい。その時の覚悟も出来ております。そして、本家ともいざという時にどう対処するかも話し合うております。
大祖父上様、もしや....、もう........。」
宗寿郎は私を案じるように表情を曇らせた。
「人はいづれ死ぬ。私はここまでのようだ。すまない。もっと長く生きてやりたかったがそれはもう敵わぬようだ。」
「いえ....。大祖父上様は、人の倍は生きられました。本当に今まで大変なご苦労といろんな思いを抱えてながら、我々のためを思うて生きてくだいました。感謝しきれませぬ........。」
私が人や己の寿命が解る事を知っていたからか、涙を浮かべながらも取り乱すことなく正面を見据えている。もう私に何も心配いらぬと態度でも示して安心させようとしてくれる。
優しい青年になったものだ。
「寂しいですが、大丈夫です。あとは、私共に任せていただきとうございます。しっかりと事を運びます故。」
「立派になられたな。」
「どうあがいても、大祖父上の様にはなりませぬ。」
少し照れるようなしぐさをして謙遜するが、この者もしっかりと勉学や剣術を磨いて、立派に呼吸術を扱える人間になった。
幼馴染である鬼狩りの娘と許嫁の仲である。
教える事にも才があり、謙虚な姿勢も、人懐こい性格も評価され、将来有望視されている者である。