第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「もし、黄泉の国で兄と母に会うことが出来ましたら、父”巌勝”が残していったこの笛と勾玉のお守りを見せ合うて語らいたい。」
「これからは、いくらとでもできよう。」
「はい。」
「父上。もし巌勝が鬼としている世に生まれたのなら、もう一度あなたの娘として生きとうございます。今度は兄とこの形見と共に...。」
「ならば、先に生まれて楽しみに待っていよう。」
手を固く握りしめながら、溢れる涙を抑えきれないまま、精いっぱい笑って見せた。
「約束ですよ。」
精いっぱい最期の力を絞りだすように、ゆっくりと細い手が私の頬に伸びた。共に涙を流しながらも最期は笑おうという互いの気持ちが胸を焼き尽くすようだった。
「父上が、わたしを見つけてくださって嬉しかった。
ありがとう、ございました........。」
眩しい笑みはあの頃の...。
桜華の父となりて、あの屋敷でこの子を天に掲げた時と重なる。
ゆっくりと太陽が沈むが如く穏やかに笑って、眠るような最期だった。
継国桜華改め 日神楽桜華は享年67でこの世を去った。
皆が起きて集まってくるまで、冷え切ってしまった桜華の手を離せず、子どもたちに肩を揺さぶられるまでその場を動くことも視線を外す事すらできなかった。
菖蒲の花が艶濃く咲く季節の事だった。