第10章 天照手記ー魂の記憶ー
ある日の午後。
私と桜華は、皆に集まってもらい、最後の話をすることになる。
彼女の子孫は20人程になり、桜華も隠居した身ではあろうとも、それなりに元当主であり年長者としての威厳も強くなってきた。
子どもたちも立派になったものだ。
兄は彼らを見てどう思うのだろう。
桜華は立派になられた。彼女は私と杏寿郎が居ったからだというが、それでも、沢山の事を成し遂げ、一代でここまで大きくしたことは共に暮らしてきたものとして感慨深く思った。
もともとは、私たち二人で成そうと始めた日神楽家。有難いことに子どもたちも、私たちの意志を受け継ぐと言ってくれた心優しい子どもたちだ。
既にこの時日神楽舞踊と名付けられて舞う、”鎮魂慰霊の儀”は桜華の孫の代に受け継がれ、間もなく当主となる正縁(まさより)と次男で補佐役となる巌定(みちさだ)に受け継がれる。
彼らと今の当主と並んで上座に座る姿は、商家の者ではあっても桜華の気質を受け継いで武家の如しである。彼らは兄と私が成り得なかった姿にも思えた。
もう、我らの命がなくとも、この者たちで大きな荒波を超えていけるだろう。
大きくなった私たちの思いをそのまま志と変えて。
想いに更けている間に、皆が揃う。
代表として創設者である桜華が話を切り出した。
「皆の者に集まっていただきましたのは、縁壱も私も高齢になり杏寿郎も亡くなって一年。すなわち、創設者であるわたしから縁壱の存命の間に二人で皆の者にわたし共の意志を伝え置くことができるのは今よりほかに無いと思うたからでございます。」
厳粛な面持ちで、正面に座り話す桜華を皆が見上げる。
桜華はこれまでの生きた経緯を話し、私の事、桜華の父であり、私の兄である巌勝のこと、鬼の事も順を追い簡潔に離した。
そして、
「今も、夜に縁壱が高齢の身でありながら鬼狩りに出かけるのは、わたしたち日神楽家、そして、産屋敷家の鬼狩りたちが生き残りの準備を果たすための時間稼ぎであります。
そして、もう齢70を超えた身では今日元気であれ、剣技に衰えはなくとも明日の命が保証されるわけではございません。
わたしも、50を超えては、明日の命も知れぬでしょう。
時が来るのです。
鬼狩り存亡の危機が。」