第4章 矛盾
黒死牟は、猗窩座の通ったであろう道筋を辿って、無限城に戻ってくると、廊下に道標のように点々と血液の跡が道を作っているのを見つけた。
その血を辿って一つの部屋にたどり着き、戸を開けた。
「.......無様、滑稽、醜態ばかり晒す。
.....その状態で我にかなうとでも思いあがっているのか。
猗窩座...。」
「こく....し..........牟!!」
黒死牟の視線の先には、血まみれで横たわり、男が来たことで上腿を肩肘で支え起き上がった猗窩座の姿があった。
目は見開ききって殺気に満ち、今でも食って掛かろうとする勢いだ。
その左の眼は潰れて血を流し頬は腫れ上がり、左の肩が大きく抉れている。
数刻前に無惨から受けた傷で驚くほどの修復能力をもつ猗窩座でも治らずに血を流し続けている。
「……桜華に会ってきた」
「.........!!貴様ァ!!アイツに何をした!!」
黒死牟の言葉に条件反射といえるくらいの素早い反応で右手で掴みかかり脚で黒死牟の頭を飛ばす勢いでかかる。
何事でもないようにそれを交わしながら
「.....話をしてきた。それだけだ。」
怪訝な顔をして睨むも血の匂いもしなければ、返り血もついていないことに、襲いかかった手を下ろした。
「結論を言う…。あの女に見切りをつけ手放すか…、一生ここに戻らず逃げ回るか…。そろそろ決断せねばならぬ時期であろう……。」
思いもよらぬ黒死牟の言葉に、言葉が出ずに動くことも息をすることも忘れた。
「あの女の事で、そこまでの有様…。まだ決められぬか。
あの女と会ってから一度も人を喰らった匂いがしない……。
今はどうやって凌いでいる...。
まさか、そこまでしておいて己の心にも気付いていないとでも言うまいな……?」
あまりにも静かな暗い怒りと心を正確に言い当てられたことに、ヒュッと息をならすも、怒りと疑いの眼差しは変わらない。
「貴様が私に勝負を挑むのは、ここでなくてもできる.....。
貴様との決闘はまだ終わりではない。」
同族嫌悪の鬼の世界で目の前の男にそのように思われてたことなど猗窩座は思いもしない事だった。