第10章 天照手記ー魂の記憶ー
そこから話は進み、”無惨の支配”という他の鬼から鬼側に情報が筒抜けの状態で、どのように桜華の血が役立てられるかを考えた。
効果がすぐに表れるとも限らない。
鬼狩りや珠世、桜華の命を危険に晒してどこまでやれるのかも問題になる。
結局できるところから始めるという結論に行きつき、桜華の血液を密封瓶に採取して、鬼狩りに渡し”血をかける””血をかけた日輪刀で戦う””血を含ませた手巾で顔を覆う”等を試みることになった。
検証も数がいることから炎柱を中心に現役の柱達の協力を得ねばならない。
もしくは、藤襲山に籠っている野良鬼たちの一部分でもいいだろう。
話し合いが終わり、その日の翌朝にはその場所を去った。
その日以後、月に一度は鴉づてに連絡を取り合い、煉獄家にも協力を依頼して内密に検証を試みた。
異変があったのはそれからで、新しい屋敷の近辺で鬼を見かけるようになる。
当然、桜華が鬼狩りの力を有する事はあちら側に知られてはならぬわけで、鬼が彼女を見つけることだけは避けるようにしていた。
そんなある日の夜、近辺の見回りをしていた時、鬼が首も斬られていないのに女の死体の傍らで悶え苦しんでいるのを見かけた。
「熱い...。熱い...。」
ふと、閃いた。この鬼は一昨日、取り逃がした鬼だった。桜華の血を少量浴びたが仕留めそこなった者だった。
死体の女は首を大きくえぐられていたが、鬼が外傷を与えたのはそこだけで、喰らわなかった血がだらりと血だまりを作っている。
血を飲み干せなかったのだと判断した。
「あの稀血が欲しい......。はぁ..........あの、暖かい稀血......。この血肉じゃねぇ...。」
鬼がそう言いながら息を荒げ目をひん剥いている。
「そこの鬼に尋ねる。その稀血とは私が小瓶を投げつけた時のものか?」
鬼は私に気が付いて、よだれを垂れ流しながらニタリと笑った。
「あぁ、そうだ...。よこせ...。あの血に浸りたい...。ここらにその女がいるんだろう?」
「残念だが連れていけない。私でも会えぬ人間だ。教えろ。どう熱いのだ。」
苦しみながらもどこか恍惚とした表情で顔を赤らめて男鬼は言った。
「おっかぁみてぇな暖かさだ...。」
鬼はそう言って事切れた。