第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「なりません。あなたにはどれだけ助けられたか...。」
「今までと先ほど疑ったことへの詫びだ。」
さくりと斬った己の腕にむしゃぶるように珠世は血を求めた。
珠世の想いを踏みにじるつもりはないが、今しがた聞いた桜華の血の事について聞く必要があった。
「人の肉を喰らわねば良い。血で足りるなら、医療で使うと言えばある程度は手に入るのではないか?」
私の血を喰らった口元を拭いもせず、驚いてこちらを見る珠世は、また泣きながら申しわけないと言った。
「桜華の血は稀血なのだな?”他とは違う””危険”と申していたがどういうことだ。」
「先ほど知り合ったばかりでございます。よくは解りかねます。」
「そうか。有用と感じるのならば、あの子とよく相談したうえで頼む。」
襦袢を引き裂いてぐるぐると切った腕に巻き終えると、二人を残した屋敷に戻った。
二人は理解してくれていたようで、先ほどと何の変りもなく珠世を受け入れた。
こうして会うのも、あの時の状況とは違って、珠世も落ち着いていた。
あの時聞けなかったことも含めて、珠世が知る、鬼の始祖と鬼の話しをよく聞かせてくれた。
初めて聞かされるその話を杏寿郎も桜華も真剣に聴いたり、時には質問も挟んだ。
鬼の情報を一通り話し始めた珠世は一呼吸置くようにして、桜華に向き直る。
「桜華さん。わたしは、20年近く前に、縁壱様に、無惨の支配を抜け”必ず無惨を倒す”ということをお約束することで逃がしていただきました。つきましては、ひとつ、その一環であなたの血液を調べさせて欲しいのです。」
「わたしの血が、どういったお役に立てるのでしょうか。」
「まだ、よくは解りかねます。わたしもまだ、医療にはさほど詳しくはございません。まだ、見習いの身です。
しかし、わたしが感じるに、鬼に何らかのよろしくない症状が出るように思うのです。
それで、血を調べるというよりは、鬼にどのような症状が現れるか検証したいのです。ご協力いただけますか?
もちろん、お体に障らない程度でよいのです。」
珠世は、使命感を感じるような真っすぐな目をして桜華に頭を下げた。
「わたしの血が、鬼、その先の始祖を滅する事にお役に立てるのならば、是非にお願いしとうございます。」