第10章 天照手記ー魂の記憶ー
その後、更に私と杏寿郎も席を外され、事実上初めての当主会談となる。
その様子から、正式に桜華を産屋敷家同等の家と認めて話をするようだった。
誠寿郎たちのいる離れにつくと、皆の者が桜華が対等に見られたことに驚いており、ただ一人桃寿郎が嬉しそうに笑っていた。
「私の息子には人を見る目があった。」
そう言って喜んでいた。
その姿に杏寿郎も照れて頬を染めており、
桜華のことをよく言われたことで、私もここに来てようやく、全てが報われたような思いになった。
「ここからが本番だぞ。縁壱殿。桜華さんがこれから出される成果に今後がかかっている。」
誠寿郎にそう言われて緩みかけていた気持ちが改まって引き締まる思いがした。
そうだ。まだ、全てが始まろうとしているに過ぎない。
これからが、”日神楽家”としてどれだけやれるかが勝負なのだ。
杏寿郎も同じ気持ちで、気を引き締めているようだった。
御館様は日が落ちるころに間に合わせて煉獄家を去った。
場所を借りた礼と、桜華、否、日神楽の創設祝いと多額の金をお断りする我らを無視して置いて行かれた。
桜華はその後、杏寿郎と私を呼び出して話をした概要とこれからの事について語った。
金の工面の心配はせずともよくなったため、三河でせねばならぬ事が大幅に減った。
そして、こちらに向かう予定でいる他の商家の者と話を通し、その手続きを完了させ、前の家を売り払う。
全て済めばこちらに移り、正式に日神楽の名で商を始めるという。
産屋敷家には、寄付金と称して鬼狩りに資金を投じ、呼吸術の継承することのみ関与することになった。
その繋がりを代々受け継いでいくために、歳をまたぐ日に”日神楽の舞”を藤襲山にて奉納することとなり、その席は両家で揃って行うこととなった。
御館様の予期せぬ来訪により、日神楽家創設がこれまでよりも一層明確になり、現実的なものになった。