第10章 天照手記ー魂の記憶ー
日を仰いだ御館様は、ゆっくりとこちらに目を向けた。
「私の想いに、協力をしては貰えないだろうか。
そして、対等に同じ目線で、共に戦って欲しい。」
向けられた眼差しは、どこか縋るようなもので、物悲しさを漂わせていた。
それを同じく横で感じ取っていた桜華は視線を合わせて
「まだ、立ち上がったばかりの家ではございますし、目の前には多大な問題を抱えております。
そして、私のような謀反者の娘ではありますが、産屋敷様のように、
悲しい鬼を増やし、
業を洗い流せぬまま時を費やす鬼にも慈悲をもって
鬼と向き合いつつ、
鬼の始祖という根源を断ちたいという思いは同じでございます。
このような私の家柄で、私でよろしければ、よろしくお願いしたいと存じます。」
御館様は目を細めて喜ばれ、頭を下げる桜華の前に跪いた。
「対等であって欲しいとお願いしたんだ。顔を上げてもらえないかな。」
そう言って微笑まれると、桜華は恐々として顔を上げた。
「桜華さん。あなたが創設する新しい鬼狩りの屋号は何という。
今一度、あなた方をその屋号で呼びたい。」
正直ここまで話しが通っていたことには驚いた。
しかし、それを驚く様子のない桜華はいつものような強い凛とした眼差しで、目の前の当主を見上げた。
「まだ、縁壱と杏寿郎には相談しておりませんでしたが、三河でのことがひと段落すれば名付けたいと思っておりました名がございます。」
「教えてくれないかな。」
「日神楽.....日神楽という名でございます。」
桜華が初めて口にした名ではあるが、それが妙に違和感がない気がした。
「縁壱が関わっている。そして、日の呼吸と月の呼吸、そして、桜華さんの呼吸術に相応しい素晴らしい名だね。
日神楽桜華さん、日神楽縁壱。日神楽杏寿郎。
これからも、どうか、産屋敷家と共に鬼の世と闘って欲しい。」
「喜んで、手を携えてまいりたいと思うております。
このようなわたしで御座いますが、こちらこそよろしくお願い致します。」
”対等”と言葉にされた事の深きを慮って、桜華は当主らしく振舞ってみせた。