第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「顔を上げてはいただけないだろうか...。」
桜華は意を決して顔を上げた。
それに満足された御館様は柔らかく微笑まれた。
「巌勝はとても素晴らしいご息女を置いていったようだね。
桜華さんはこんなにも凛々しく、この時代にはもったいないくらいの裁量がある。
縁壱に謝る機会をくれたことと重ねて、私と出会ってくれたこと、本当に有難い事だと思っているよ。」
「謀反を起こした者の娘に対し、そのようなお言葉はおやめください。
本来なら、武家であれば、切腹、お家取り潰しは必然のところであります。捨てた家族であっても、お会いになることですら憚られる。
何故にそこまで思うてくださるのですか?」
「誠寿郎。桃寿郎。4人にさせてもらえないかな。」
「しかし...。」
「お願いするよ。」
「......!!」
二人は人払いをして奥の離れへと移った。
その間も、穏やかな表情を崩すことなく、我ら3人を見ていた。
「今回の巌勝のしたことで父を亡くして、
暫くの間、ただ恨みに恨んでいたんだ。
桜華さんの事を聞くまではね。
あなたは、私たち産屋敷家とは違って、御父上の心を救おうとして、寄り添い、彼の深い闇に光を注ぐために、鬼狩りの家を築こうとしている。
その時に、我が産屋敷家の祖先はどのように思い、家を創設したのかと考えたんだ。」
「あなたのように、優しい想いではなかったのだよ。人間のままの血で生まれてくる産屋敷家を絶やさないためだった。
そして、そのために多くの者の命を散らせ、心を削らせている。
歴代の当主はその想いに身を抉られても、鬼狩りを続けていくために、意味を見出して己が責務を果たそうとしてきた。」
静かに立ち上がり、空に高く昇る日の光を仰ぎながら、どこか儚げに御館様は話を続けた。
「あなたの話を耳に入れて、その想いに触れて、私はこれまでの考えを改めた。
己の血筋.....産屋敷家が生み出した鬼の始祖が、人の人生を大きく狂わせるのを早く止めねばならないと。
500年先、時代の流れで鬼が生きづらい世の中になるであろうと思ってはいる。
だけど、それより前に、一刻も早く無惨を滅ぼしたい。
人しか喰らえぬ悲しい鬼を
そこから生まれる負の連鎖を
一刻も早く止めなければならない。
それが使命だと思うようになったんだ。」