第10章 天照手記ー魂の記憶ー
婚儀は細手塚家から借りた館にてささやかながらも厳粛に執り行った。
武家で嫁ぐ身であれば白であるという習わしが当てはまらず、
"両家で新しい家を誕生させる"
という意味で婚礼の衣装を整えた。
月白色の白装束に深紅の紅をさした桜華は、昨夜とは違い当主として凛々しくあった。
杏寿郎は白銀の紋付袴でいつしなく緊張しているようだった。
略化された婚礼であり武家では無いことから侍女がいない代わりに両親が儀式を見守り済ませ、2日二人で過ごした後、荷物を纏めて三河へ下る手筈となっている。
その儀式が終わり、借りた館で2日が過ぎた。
私の鴉が舞い降りて、煉獄家に行けとそれだけを言い残しどこかへ去っていく。
予感というものだろうか。直感で身震いがした。
二人がいる館へ向かい二人に合うと、杏寿郎の鎹鴉にも連絡があったらしく、本来ならばこのまま我が屋敷に向かい三河に向かう支度を整えるつもりだったのだが、至急3人で煉獄家へ向かった。
煉獄家へ赴くと、黒装束を纏ったものたちが多数身を潜めているのが解る。
だが、敵意がないのは明らかで、異様な雰囲気に緊張と僅かな予想が身を引き締めた。
屋敷に入れば、家の中に人の気配があるものの静まり返り、子どもの声すらしない。
「来たようだね...。」
心地よい声に、強い罪悪感から身を背けたくなる。
「おいで。縁壱。そして、”継国 桜華”さん」
この身を包むような暖かい感覚、忘れるはずもない。
「御館様......。」
兄が殺めた御館様の御子息。
桜華より二つ年上に当たるこの方は、最後に会ったのは6つの頃だった。
先代である御父上の声に瓜二つながら、彼よりも穏やかでゆっくりとお話になられる。もう19の歳であろう。
あの時の大きく深い傷を抱えてもなお、ご存命であらされた。
それを思うだけで涙が滲んだ。
「縁壱殿。上がられよ。御館様の御前だ。」
「かたじけない。」
「「失礼いたします。」」
私らを招き入れた誠寿郎もまたいつしなく穏やかで、その表情は以前のような戦慄するようなものではなくなっていた。
3人で屋敷へと上がり、客間へと向かう。
上座には二人と同じくらいの青年となられた御館様が青くただれ始めていたご尊顔のまま柔らかい微笑みを浮かべていた。