第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「煉獄殿。」
二人が咎められるのに黙ってはいられない。
「縁壱!!お前も…っ!!」
私はよい。ただ、桜華と杏寿郎の話していた未来を聞いて欲しい。
「話を聞いてくだされ。」
生涯で何度目かの心の中で滾ったものが目覚め、己が発した声で漸く二人は沈黙した。
「二人の話を聞いてくだされ......。我々の世代が古くなった固い頭で事を成しては鬼狩りは滅ぶ。
切っ掛けは私が作ってしまったのだ。それをこの二人は埋めようとしてくれている。
無惨は、私の呼吸術を恐れて逃げたのだ。
私の命の糸が切れれば、鬼狩りを滅ぼしに出る。
鬼になった兄と手を組んで...。
二人はそれを真っ向から戦うのではなく、息を繋いで次の機会まで鬼狩りを絶やさぬことを狙うと言うておられる。」
「どういうことだ...。」
漸く話に興味を示した誠寿郎と杏寿郎の従兄たちの目は横に控える二人へと移った。
一呼吸置いた杏寿郎はゆっくりと二人を見て話しを切り出した。
「縁壱様の仰るように、お二人の元へ鍛錬に行く傍ら、桜華さんと縁壱様と、今後の鬼狩りの事についてよく意見を交わしてまいりました。
縁壱様が逃がしたという鬼の娘が申すに、鬼から無惨へと視覚、聴覚、感情が伝わるという特徴がございます。
故に、縁壱様が現れなくなり、この世におらぬと分かれば、今のこのような衰退の一途を辿る鬼狩りの勢いも、鬼舞辻無惨によって完全に息の根を止められてしまうと......そう思うております。」
杏寿郎の発言に二人を除いて他の兄弟たちがざわついた。
無理もない。私が鬼狩りを去るときに信用されなかったあの娘の話など誰も覚えてはおらぬはず。
ただ一人聞いてくれていた槇寿郎ももういない。
彼らは槇寿郎の意志は受け継いでも、私の話は引き継いでいないであろう。
鬼狩り存亡の危機が意外にも私の命の長さという頸の皮一枚で保っているという現実が呑み込めていない。
鬼も、我らが全盛期に比べて息をひそめているという現状。
鬼が減ったと糠喜びする者もいるという。
だが、肝心な首魁が滅びねば、この忌まわしい鬼が居座る夜の闇を終わらせることは出来ない。
彼らとて戦略を練れるほどの者だ。
それくらいは解って欲しいと願った。