第4章 矛盾
女も猗窩座に出会い、今まで二人きりでこの数か月を生きてきた。
逃げもせず。
そのことからある程度の信頼関係があると見ていたが、こちらも頼りがいない分、猗窩座に抱く想いもあるようだ。
「...お前はあの時と同じ気配がするが稀血の異質な匂いはかなり弱くなっている。
そして、わたしの知る十二鬼月の鬼どもの中で猗窩座は異質。
他責の念が全くといっていいほど感じられない…。
そして、もともと、十二鬼月の中で一番人を喰らわないのもあの鬼の特徴だ…。
そして何より女を殺しも喰いも、襲いもしない…。」
「そして…、鬼の人間時代の性質でお前の血の作用も感じ方も異なるのならば.....、その結果とやらも自ずと変わるのだと私は思っている…。」
女は顔をあげて私をまっすぐに見据え、しっかりと話を胸に刻んでいるように思えた。
この者もとびぬけた感覚の持ち主で私が信用できるのかを見極めてそうしているように思えた。
この鬼は何をわたしに言いたいのか...。
僅かな期待だけど、わたしがもし猗窩座と逃げるとしたとして自分は追うことはしないとでも言いたげな様子。
どちらにしても、猗窩座がわたしを見限らない限りはわたしも彼も殺される。
少なからずだけど、この鬼はどこか猗窩座に大きな良い期待をしているように思えた。
彼らが大きく望んでいる”力”についての事だろう。
逃げるのなら僅かな期待で生きながらえていたとして、その後、生きているうちに猗窩座が自分に挑んでくることを望んでいる。
だとしても...、あまりにも空を掴むような話。
期待のし過ぎではないかと思ってしまう。
《あなたは、わたしの血で猗窩座が人間に戻るとお思いなのですか》
「.....なかなか頭のキレる女だ。
.....私は数百年退屈している。あの男はもともと鬼になる前から強かったと無惨様から聞いている。血鬼術ももともとの力の補助的なものに過ぎない。」
身勝手な期待だ。
でも、逃げても無惨の直接で個人的な指示ではない限りこの鬼は動かないとでもいうのなら、
信用は出来なくても少しは安心してもいいのかもしれない。