第10章 天照手記ー魂の記憶ー
杏寿郎によると、珠世が言っていたことをそのまま覚えていたらしい桜華が、鬼の目から入る情報に私がいる間は下手に動かないと思っているらしく、いなくなった後私の呼吸術を継承する者はことごとく亡ぼすであろうと予測していた。
実際、鬼となった兄は御館様の頸を撥ねて持ち去り、新しい主へと忠誠を誓った。
鬼である以上、その頸を撥ねるまでの半永久的に従属するであろうその存在は、私から見ても間違いなく一番の右腕となって働くであろう。
となれば、主が恐れるであろう私の存在とそれに纏わるものの全てを消したいと思うのが想像できた。
桜華は弟である私に気を遣ってかその話を私にではなく杏寿郎にしたのだろう。
「私は、煉獄の名も、継国の名もこれらの懸念のため伏せておいたほうがいいと心得ます。
先々に意思を継ぐ者が途絶えてしまえば、元凶である始祖にたどり着ける未来もなくなるでしょう。」
「それは、桜華の考えでもあるのだな。」
「はい!」
ただ惚れた晴れただけの駆け落ちのような婿入りでないのなら、遠慮することもあるまい。
私も、誠寿郎たちと話がしやすいというものだ。
「杏寿郎。誠寿郎には私から話をしよう。よくぞ決断してくれたな。」
「煉獄家の鬼狩りとして、当然の責務であります。」
立派な剣士となったものだ。
真っすぐに正面を射貫くような眼差しは幼き頃から変わらぬ。きっと、鬼狩りの世を少しでも良い状態で次の世代へ引き継げるだろう。
「桜華の事もよろしく頼む。」
「は......はい!」
桜華の事になれば頬を赤らめるような純粋な男だ。
大事にしてくれるだろう。
人は育つのが速い。時もそれと同じく過ぎ去るのが速いものだ。
あんなに幼かった二人も、もう一人前の大人になり、所帯を持つ。
兄上......。
兄上だけはあの時のお姿のまま鬼になり、何もかも忘れてしまったのでしょうか。
私への怨念を心に深く刻んだままにして...。