第10章 天照手記ー魂の記憶ー
ほどなくして、杏寿郎が一人だけで私の前へきた。
「"男"であり”鬼を狩る者”として話があるので、聞いて欲しい。」
との事だった。
桜華は細手塚の家に向かわせたらしい。
「どういうことだ。」
「他意はござらぬ。ただ、多難な道のりをお二人で支え合いながら生きてきたというあなた方の深い絆は”家族”という枠にではは計れないことは解っているつもりです。」
「先ほどの私の声は聞こえてらしたでしょう」
と照れくさそうに笑う。私も桜華と同じ事を思うておるのだろうとわざと聞こえるように申したらしい。
目の前の男は、心の底から桜華の事を思い、同時に私の事を深く理解していた。
外で話すような事ではないと、誰もおらぬ我が屋敷に入れてやり、向かい合って座る。
「お二人と共に、これからの人生を歩ませて欲しいと思っております。
心から尊敬するのは父と伯父、そして、私の心に気づきながらも、桜華さんとの鍛錬を許可し、共に学ばせていただいた縁壱様であります。
そして、私はお二人を大切に思っているのと同時に、この縁談はお二人がいなくなった後の世の煉獄家の存続、鬼狩りの存続に大きく関わるものだと思うているのです。
だからこそ、父にも伯父にも必ず理解してもらえるものと思うております。」
「煉獄家の存続...。」
「はい。
私の伯父と父から聞いた話、そして、桜華さんと共に縁壱様と剣技を学ばせていただいて、縁壱様の剣技がどれほど鬼に対して恐怖であるものかというのも身に染みて理解しております。
それ故に、桜華さんと幾度となく鬼狩りの未来について語り合ったことがあるのです。」
これまでにも幾度か二人が真剣な面持ちで話し込んでいるのを見たことがあり、桜華自身も杏寿郎が”鬼狩りについて話や意見が合う”と言っていた。
私ともそのような機会があったが、彼の申し出たこの話に煉獄家がどのように絡んだか、桜華とどこまで何を話し何を考えたのかが興味深かった。