第10章 天照手記ー魂の記憶ー
二刀流の稽古に取り組むようになってから、ふたつの呼吸術を交えて戦う稽古を始めた。
いきなり強力な呼吸術を同時にこなすのは難易度が高すぎる故の判断だ。
杏寿郎に桜華が事を話した時に出された案であり桜華も納得して始めたことだった。
しかし、取り掛かって早々派生の呼吸同士を同時に繰りなすと互いが相殺し合って威力が落ちてしまうことがわかる。
次に日の呼吸と派生の呼吸と組み合わせるが、日の呼吸にどれも負けてしまうようだった。
結局、同じ天体である月との組み合わせではと試したところ、特徴が釣り合いが取れ流れるように切り替えが可能であった。
そして、重ねて織り成す技はひとつの強力な呼吸術に匹敵するもの。
それを編み出せたのは16になる頃。
必然的に彼女が希望していた日の呼吸と月の呼吸両方をふたつの手に持つこととなったのだ。
刀はその呼吸術が生まれて間もなく形になった。刀扇という、薄い日輪刀を幾重にも重ねて扇状をしたものを持ち手のカラクリで刀の角度と開き具合を調節できるものとなる。
舞は当初、剣舞を舞踊として隠すために修得したが、まさかそれが桜華の剣技そのものになるなど夢にも思わぬ事だった。
色変わりの刀のそれぞれの刃が根元から漆黒に染まり、刃先は白銀に変わる。
紛れもなく初めて見る色であった。
共に精進していた杏寿郎もそれを見守り、3人で呼吸の名前を模索した。
これまで、派生の呼吸がある程度習得できたこと、月の呼吸、日の呼吸と扱う事が出来ることから、それぞれの呼吸術を"結ぶ"呼吸であると言う意見で一致する。
更に桜華はこうも言った。
「わたしの本懐は、継国巌勝の魂を呪縛から解放し叔父上とのわだかまりを解くこと。つまりは繋げる事です。
月と太陽を父と叔父上とするのなら、ふたつの天体に照らされるわたしはこの地上です。
この地上から月と太陽を結びとうございます。」
そして、3人の前にある半紙に筆を走らせ
"結の呼吸"(ユイノコキュウ)
としたためた。
それからは、己の剣技を完成させるために日の呼吸、月の呼吸を合わせて使う鍛錬に切り替えて、商売のこともしながら懸命に取り組む慌ただしい日々をまた送るようになったのだった。