第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「それはあまりにも無茶....」
「いいえ、お待ちください縁壱様。」
私の言葉を遮ったのは巧治殿だった。
落ち着いた声でしっかりとこちらを見据え、慶治殿の制止の手を握って下ろした。
「俺は、桜華さんとお会いした日に約束しました。彼女の羽ばたくための踏み台になると。
そして、この細手塚家が里から追放されたことで俺は細工を学び習得してきて、兄さんの打つ刀と共にここまで歩んできた。
その意味が、今、桜華さんの願いを叶えることで生まれると強く思っております。
日本一の刀を打ってきた細手塚だからこそ、細工を極めた俺と今の棟梁の兄さんが組めばきっと素晴らしいものができましょう!」
巧治殿の言葉に慶治殿も大きく頷いた。
「巧治の言う通りだな。俺たちができないと言ってしまっては、桜華さんの夢は叶いますまい。
初めてお前との仕事になるな。」
「俺の方からも約束しましょう。必ず、桜華さんの満足のいく刀を打つと。」
2人の表情は、職人の腕を試さる大仕事になると強く意気込んでいるように見えた。
桜華は即答で返ってくる返事に驚いてはいたが、2人の話に感謝するように深く頭を下げた。
「無理難題な願いにそのように言っていただき恐悦至極にございます。
打つ方の素人からしましても、手探りの部分が多いと思うております。
どれだけかかろうとも待ちます。何卒宜しくお願い致します。」
結局は元服の祝いは羽織となり、青みが強い紫に
白銀の糸で刺繍された菖蒲の花が葦られたものを贈り、刀は完成系が出来るまでの刃が少々短い刀を二本を打つことになった。
その羽織を着た姿にまた兄を重ねて
大人になった彼女があの時の兄の姿にどんどん近づいていくように感じたのだ。