第10章 天照手記ー魂の記憶ー
翌日からの2年間は剣術のみの鍛錬を夜明けから夕暮れまで行った。
物覚えが良い上に適正も申し分なかったが、体力と力が足りないようだった。
それでも、威力が足りないながらも兄の月の呼吸、私の日の呼吸を見事習得した。
彼女の場合他の派生の呼吸が生まれた時とは違い、多彩な呼吸術に順応しやすい性質がある。
なにか特別なものがあるように思えた。
いうなれば、煉獄殿が手合わせに来た時、桜華とも手合わせ願おうと誠寿郎が桜華と木刀で打ち合ったとき、炎の呼吸術を使い、見事に火を噴いたのだ。
水の柱も雷の柱も訪れて手合わせしても習得はするもの威力はこれ一つといったものだった。
各々協力してくれた柱達は『縁壱ならわかるのではないか』というが、剣術そのものだけでなら、兄の血を引いてか いっぱしの剣士以上の腕をもってはいても、それ以上の事はまるで分からなかった。
しかし、確実なのは、桜華には桜華にしかできぬ何かがあるという事。
桜華はめげる事なく鍛錬に励み、3年目に入ると細手塚家で商いを学びながらもどちらも疎かにすることがなかった。
杏寿郎は元服の義を終えてからは週に2度ほどは来るようになり、桜華とも何度も手合わせをした。
将来有望視されるほどの呼吸術の使い手とまで成長されて、威力が足りない原因を共に探ってくれるようになる心優しい青年となられた。
桜華が14歳となり、元服の祝いに刀をという事になり細手塚家で巧治殿と慶治殿と4人でどのようなものにするかを話した。
「慶治さん、月の呼吸を習得しましたが、今斬撃がただ一直線の月の弧を描くだけのものでございます。
細い無数のそれを出して飛ばすような刃を生み出すことは可能でしょうか。」
斬撃を飛ばすような方法は男でも至難の業だ。
桜華は確かに強いが、体にはどうしても超えられぬ限度があるし、それを最高に高められる時期も僅かである。
なのに、
「わたしは二刀流でなければいけないと思っております。
このふたつしかない手で月と太陽を抱え、伝えていのが使命です。
それが叶えられるような剣を作って欲しいと思っています。」
それ以上のことを言うその表情も気迫も並ならぬ覚悟を感じ得るものだった。