第10章 天照手記ー魂の記憶ー
「杏寿郎!千寿郎を入れるなと!」
桃寿郎は慌てて幼児に駆け寄った。
「父上!伯父上様!申し訳ございません!」
大きなハツラツとした声が屋敷を割るように響いた。
齢12の歳の頃か、少年は弟を追いかけるようにして室内に入り、勢いよく頭を下げた。
「御客人も失礼いたしました!!」
勢いよくこちらを見て、頭を畳に叩きつけるように下げる。
桜華も驚いたのか体を起こしたまま口をあんぐりと開けて固まっていた。
「よい。元気があることはよい事だ。顔を上げなさい。」
「はい!!」
私の言葉に安堵したのか、少年は顔をがばりと上げてこちらを見た。
「お初にお目にかかります!私は、煉獄桃寿郎の次男、煉獄杏寿郎でございます。
父と伯父が世話になっております!私の不注意で弟を部屋に入れてしまったこと、真に申し訳ございませんでした!」
再び頭を叩きつけるように伏した杏寿郎は、弟の頭を押し付けて共に謝罪するように仕向けていた。
再び顔を上げさせると、桜華に気づいたのか、そちらに目を向けた。
「継国縁壱だ。こちらはむす.....姪の.....」
「継国桜華でございます。」
何を思ったか一瞬、目を見開いたまま固まって、我に返ったように素早く頭を下げた。
「杏寿郎。もうしばらく時間がかかる。暫く外で千寿郎の相手をしていて貰えぬか?」
「...あ、はい!申し訳ございませんでした!」
「よい。下がりなさい。」
「はい!!」
杏寿郎は千寿郎を抱きかかえて障子の前に姿勢を正して、こちらを見た。
「失礼いたしました!」
頭を下げ、再び顔を上げると、もう一度桜華の方を見た気がした。
目の前の二人にも頭を下げると廊下に出て、再び頭を下げて障子を閉めていった。
「もう、あのように大きくなられたのだな。」
「縁壱殿、覚えておったのか?」
「あぁ。最後に会ったときはまだ幼かったな。立派になられた。」
「子どもが成長してしまうのは早い。もう2年もすればあの子も元服する。」
そう言いながら、再び賑やかになった庭を障子越しに見つめながら、父親としての眼差しで声がする方を見つめていた。